15話「アリアベルタ、畑を作る」
私はゴテゴテしたドレスを脱ぎ、クレアさんに用意してもらった作業着に着替えました。
メイクを落とし、縦ロールをやめ、ポニーテールにしました。
ドレスを脱いで、メイクを落として、縦ロールをやめただけでも、スッキリした気分です。
監視のジャネットもいないし、最高の気分だわ!
私は「やるぞー!」と意気込んで庭に出ました。
「えっ……と? 離宮のお庭ってこんな感じだったかしら?」
昨日まで庭を覆っていた雑草が、綺麗さっぱり消えていました。
「僕が雑草を全部枯らして、枯れた雑草を魔法で土に返したのだ」
流石フェル! 仕事が早いわ!
「ありがとう、フェル!
草刈りから始めなくてはいけないと思っていたから、助かったわ」
生い茂る雑草を一人で処理したら、半日以上経過していました。
「早く畑を作って、じゃがいもも植えるのだ。
美味しいじゃがいもを、お腹いっぱい食べたいのだ!」
「そうね、私も茹でたてのじゃがいもをほくほくしながら食べたいわ!」
お塩をちょっとかけると、美味しさが増すのよね。
私は、クレアさんに用意してもらったクワを手に取り、庭を耕すことにしました。
フェルが、体力と力と素早さが上がる魔法をかけてくれたので、作業がサクサクと進みました。
「ふーー、こんなものかしら?」
フェルの魔法のおかげで、一時間ほどで庭を耕すことができました。
「奥は果樹園にして、手前をじゃがいも畑にしましょう」
「賛成なのだ!」
畑に自国から持ってきた、りんごや桃やみかんや梨などの種を植えていきます。
お母様は「杏は捨てるところがないのよ」と言っていたので、杏の種もほしいわ。
この国で、もしも街に出ることができたら手に入れたいです。
私が種を植えたところに、フェルが植物がよく育つ魔法をかけていきます。
じゃがいもは一日。
りんごなどの木の実は半年あれば実がなるでしょう。
「果物が実ったら、お菓子をつくりたいわね」
「僕はアップルパイと、
桃のタルトと、
みかんのジャムと、
梨のパウンドケーキが食べたいのだ!」
「フフフ、それはいいわね」
最後に、アップルパイを食べたのはいつだったかしら?
お城の人と仲良くなれば、卵やお砂糖や小麦粉をわけてもらえるかもしれないわ。
もしそれらのものをわけてもらえたら、お菓子を作りましょう。
紅茶も飲めたら素敵ね。
夢が膨らむわ。
「木の実の種は植えたから、次はじゃがいもを植えましょう」
自国から持ってきた種芋を、四分の一にカットし、畑に植えていきます。
私がじゃがいもを植えたあとから、フェルが畑に魔法をかけていきます。
「明日の朝には、収穫できそうね」
「楽しみなのだ!」
今は畑に畝しかありませんが、明日には青々とした葉が茂っているはずです。
そして土の中には、じゃがいもが実っていることでしょう。
「ふかしたじゃがいもに、お塩をかけて食べると最高なのよね」
「そんな話をしたら、お腹が鳴ってしまうのだ」
じゃがいもを収穫したら、一部を種芋として残して、また庭に植えよう。
一週間もあれば、沢山のじゃがいもを収穫できるわ。
「お庭で収穫したじゃがいもをお城の人に食べてもらいましょう。
私達が育てたじゃがいもが美味しいってわかってもらえれば、
もっと広いお庭を貸してもらえるかもしれないわ」
「この城の庭をぜーーんぶ、じゃがいも畑にするのだ!」
「それもいいわね」
その時は、じゃがいも以外の種も分けてもらえないか、クレアさんに頼んでみよう。
トマトや、ナスや、人参や、ピーマンなどの野菜も育ててみたいです。
収穫できる野菜が増えたら、お料理のレパートリーが増えて、きっと楽しいわ。
◇◇◇◇◇
「王太子妃様、こちらにおいででしたか。
昼食をお持ちしましたよ…………って、ええっ!!」
クレアさんの声が聞こえました。
彼女は私を呼びに来たようです。
彼女が驚いているのは、飛んでいるフェルを見たからでは?
ヒヤッとして、フェルを見ると、彼は他の人には見えないように姿を消していました。
私はホッと胸を撫で下ろしました。
「こ、これがあの荒れ果てていた庭ですか……!?」
クレアさんが庭を指さして、口をぽかんと開けています。
「午前中に、頑張って作業しましたから!
無事に畑にすることができました」
草ぼうぼうだった庭が、数時間後には畑になっていたのです。
クレアさんが驚くのもわかります。
とても女性一人で、なんとかできる作業量ではありませんから。
それはそれとして、体を動かしたのでお腹が空きました。
「クレアさんが昼食を運んできてくれたんですね。
ありがとうございます。
体を動かしたから、お腹がペコペコなんです」
クレアさんは、私の顔を見て、目を瞬かせていました。
「誰……!?
えっ、もしかして王太子妃様ですか……?
見間違えました……!」
クレアさんは私の顔を見て、キョトンとしています。
クレアさんは、ゴテゴテしたドレスを着て、厚化粧をした私しか見たことがありません。
メイクを落として、縦ロールを解き、ポニーテールにし、作業着を着た私に驚いているのかもしれません。
「嘘……全然不細工じゃない……。
むしろ、可愛い。
……ひょっとして、あの厚化粧は隣国での流行り……?」
クレアさんが私の顔を見て、何か呟いています。
「あの〜、クレアさん?」
「し、失礼致しました!
王太子妃様の顔をまじまじと見るなど……!」
クレアさんが勢いよく頭を下げました。
「顔を上げてください。
私は気にしてませんから。
今朝までキツめのメイクをしていましたから、メイクを落とした顔を見たら驚きますよね」
私のこの国での評価を下げるために、ジャネットがわざと不細工に見えるメイクを、施していたとは言えません。
「王太子妃様はそのままの方がお綺麗です!
ずっとそうしているべきだと思います!」
「ありがとうございます」
お母様とフェル以外に、「綺麗」と言われたのは初めてです。
気分が良いものですね。
「そうすれば、王太子殿下の評価も上がるはず……」
王太子の評価は別に変わらなくてもいいと思っています。
庭を自由に使わせてくれれば、それだけで満足ですから。
「それより、早く昼食にしましょう。
お腹が空きました」
「僕も〜〜!」
フェルは今姿を消しているので、彼の声は私にしか聞こえません。
「はい、ただいま」
その日の畑仕事は終わったので、
午後はメイド服に着替えて離宮のお掃除をしました。
離宮は事前にお手入れされていたようで、そこまで大掛かりなお掃除は必要ありませんでした。
歓迎されていないと思っていましたが、蔑ろにするつもりはないようです。
お掃除が終わると、夕食の時間でした。
夕食を届けに来たクレアさんに、大きな鍋とお塩を持ってきてほしいとお願いしました。
クレアさんは大きな鍋を何に使うのか、不思議そうにしていました。
不思議そうにしながらも、彼女は鍋を持ってきてくれました。
明日の朝、畑に植えたじゃがいもを収穫します。
じゃがいもを鍋で煮て、お城の人に食べてほしいのです。
なので大きな鍋が必要なのです。
でも、それはじゃがいもを収穫するまでは秘密にしておきたいです。
フェルの魔法で育ったじゃがいもは、普通のじゃがいもの何倍も美味しいです。
茹でたてのじゃがいもに、お塩をかけて、ほふほふしながら食べると最高なんですよね。
早く、この国のみんなにも、フェルの育てたじゃがいもを食べさせてあげたいです。
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