14話「アリアベルタ、メイド服にはしゃぐ」
楽しい食事の時間は、あっという間に過ぎてしまいました。
私達が食事を終えた頃、クレアさんが戻ってきました。
彼女は何枚かの衣服を抱えていました。
「ご馳走様でした。お食事とっても美味しかったです」
私はクレアさんに笑顔でお礼を伝えました。
「今日は、きちんと召し上がられたのですね……」
クレアさんが、テーブルの上の食器をじろりと見ました。
「私がちゃんと料理を食べたかどうか、わかるんですか?」
「捨てたのか召し上がったかの違いぐらい、皿を見ればわかります」
出来るメイドさんはそんな事もわかるんですね。
「今日からは毎日、美味しくいただきます。
絶対に残したり捨てたりしませんから安心してください」
私は彼女の顔を見てにこりと笑いました。
「そうですか、食事が無駄にならず安堵しております」
そう言ったクレアさんは、少しだけ嬉しそうでした。
「王太子妃様に頼まれていた衣服をお持ちしました。
作業用の道具は玄関の脇に置きました」
「ありがとうございます!」
私は席から立ち上がり、クレアさんから衣服を受け取りました。
彼女が持ってきてくれたのは、農作業用の服と、メイド服でした。
それと、作業用の長靴と、室内用の歩きやすそうな黒の靴もありました。
「ここのメイド服のデザイン可愛いですね!
この服は新品ですか?
真新しいお洋服なのにいただいてよろしいのでしょうか?」
メイド服は、黒のワンピースと、白のエプロンと、ヘッドドレスのセットでした。
軽くて、動きやすそうな服なので、この服を着たら、お部屋のお掃除がはかどりそうだわ。
「こっちは農作業用の服ですね!
動きやすそうだわ!」
作業着は白の長袖のシャツと、茶色のズボンと、手袋でした。
「王太子妃様、本当にそのようなお召し物でよろしかったのですか?」
クレアさんが訝しげな表情で尋ねてきました。
「はい! とっても助かります!」
私はにっこりと微笑んで返しました。
これで重たいドレスから解放されます!
「食事の後片付けは、わたしがします」
「そんなことまでしていただけるんですか?
ありがとうございます、クレアさん!」
「そのくらい普通です。
王太子妃様にさせるわけには参りません」
できるメイドさんは、食事の後片付けもしてくれるのですね!
感激です!
「昼食の時間に、また参ります」
クレアさんは、食べ終わった食器をワゴンに載せると、こう言いました。
「ええっ!?
朝食と夕食の他に昼食も出るんですか?」
「そこまで驚くことですか?
ノーブルグラント王国では一日二食しか召し上がらないのでしょうか?」
少なくとも、母が亡くなってから離宮に一日三回も食事が運ばれたことはありません。
「お昼ご飯、楽しみにしてますね!」
三食も用意してもらえるなんて、ここは天国かしら?
「昼食程度で騒がないで下さい。
いくら我が国が食糧難でも、王族の方に三食召し上がっていただく余力はあります」
クレアさんは眉をしかめ、食事が載っていたワゴンを押して部屋を出ていきました。
昼食が出る衝撃に、思わず浮かれてしまいました。
この国が今、食糧難であることを忘れてはいけません。
クレアさんはああ言っていましたが、役立たずの私への食事は、二食で良いと考えている人もいるはずです。
「フェル、早速畑仕事に取り掛かるわよ!」
「おー! なのだ!」
私が拳を握りしめて天井に向かって突き上げると、フェルも真似をして腕を振り上げました。
「たくさんじゃがいもを作って、
お城の人にも、
城下町の人にも、
お腹いっぱい食べさせてあげましょう!」
「楽しみなのだ!」
フェルと一緒にこの国に来たからには、国民を飢えさせたりはしません!