13話「美味しい朝食」
「昨日、王太子妃様付きのメイドに、宮殿までお食事を取りに来るように伝えたはずですが……。
彼女はどこにいるのですか?
なぜ、朝食を取りに来なかったのですか?
もしかして、体調を崩されたのですか?」
クレアさんが、心配そうな顔で尋ねました。
「ジャネットのことですか?
彼女なら国に帰りましたわ」
「えっ?」
私が答えると、クレアさんは目を大きく開き、驚いた表情をしていました。
「では、王太子妃様のお世話は誰がしているのですか?」
クレアさんが、あり得ないといった表情で尋ねてきました。
「誰もしていません」
「はっ?」
彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていました。
「心配しないでください。
身の回りのことは自分でできます。
お食事も、今日から私が取りにいきます。
何時に、どこに伺えばいいですか?」
お食事を取りに行く場所と時間さえわかれば、毎日伺います。
「王太子妃様が、自ら着替えや髪のセットをし、食事の給仕までなさると……?
そうおっしゃるのですか?」
クレアさんが、目を瞬かせていました。
「そうです。
祖国でも自分のことは自分でしておりましたから、不自由はありません」
「ええっ?」
クレアさんは呆然としていました。
「ですが、祖国から着てきたドレスは少し動きにくく、身の回りのことをするのには向きません。
普段遣い用の動きやすいドレスか、ワンピースを貸して頂けませんか?
メイド服でも構いませんよ」
メイド服なら、お掃除やお洗濯をするとき動きやすそうです。
「それと、昨夜王太子殿下からお庭の使用許可をいただきました。
彼は、農作業用の服と、鍬や鋤や鎌やスコップなどの道具を貸してくださると約束してくださいました。
農作業用の服と道具はどこにあるでしょうか?
場所を教えていただけますか?」
クレアさんは口を半開きにし、唖然としていました。
「アリー、僕お腹が空いたのだ。
ワゴンから美味しそうな匂いがするのだ」
フェルが私の服をちょいちょいと引っ張りました。
今フェルは姿を消しているので、フェルの声はクレアさんには聞こえません。
「そうね。まずはお食事にしましょう」
私は小声でフェルに返しました。
「王太子妃様、今どなたとお話になられていたのですか?」
小声で話したつもりだったのですが、クレアさんには聞こえていたようです。
「独り言ですわ。
オホホホホ」
私は笑ってごまかしました。
「ところで、今日の朝食は何かしら?」
私は話を逸らすことにしました。
昨日、食べたふわふわの白パンがあるといいのですが。
私は、わくわくしながらトレイの蓋を開けました。
「昨日と同じメニューです。
白パンと、野菜サラダと、野菜のスープと、オムレツです。
ノーブルグラント王国では、王族の食卓に上がるようなものではなかったかもしれませんが、
我が国ではこれでもご馳走なのです。
わがまま言わないで食べてくださいね」
クレアさんが、ツンとした態度で言いました。
昨日、クレアさんから食事を受け取った時、ジャネットはよほど酷いことを言ったのでしょう。
クレアさんには、申し訳ないことをしました。
「ぷるぷるのオムレツ、
白くて柔らかいパン、
具だくさんのスープ、
みずみずしい野菜サラダもついているなんて、素敵です!
これ、全部食べていいのですか?」
瞳をキラキラさせてクレアさんに尋ねると、クレアさんは驚いた顔をしていました。
「王太子妃に、そこまで喜んでいただけるとは思いませんでした……。
……どうぞお召し上がりください」
クレアさんから許可をいただきました。
「わーい、ご馳走なのだ!」
フェルが、私の横ではしゃいでいます。
朝食はフェルと半分ずつ食べましょう。
でも困りました。
クレアさんが同じ部屋にいると、フェルとご飯を半分にできません。
「食べ終わった食器は私が宮殿に戻します。
クレアさんはお仕事に戻ってください」
「そういう訳には参りません。
王太子妃様に食事の後片付けをさせるなど、恐れ多いことです」
クレアさんは厳しいところもありますが、真面目なメイドさんのようです。
ジャネットのようなメイドとしか、接して来なかったので、彼女のようなタイプは新鮮です。
それでも、なんとかクレアさんに退室して貰わないと、フェルと一緒にご飯を食べられません。
「それならこうしましょう。
クレアさんは、私が食事をしている間に、メイド服と農作業用の衣服と道具を用意してください。
食事のあと、すぐに農作業に取り掛かりたいのです」
「そういうことでしたら……。
承知いたしました。
それではわたしは、一度退席させていただきます」
クレアさんは、お辞儀をしてから部屋を出ていきました。
ふーー、これでフェルと二人で食事を楽しめます。
それにしても、ジャネット以外のメイドさんは礼儀正しいのですね。
「アリー、早くご飯にしようなのだ!」
フェルがワゴンに載った食事を、目をキラキラさせて見ています。
「そうね、クレアさんが戻って来る前に食事を済ませてしまいましょう」
実を言うと、私もお腹がペコペコだったのです。
食事をテーブルの上に、バランスよく配置しました。
「「いただきま〜〜す」」
食事に手を合わせてから、食べることにしました。
「ん〜〜!
この白パンのふわふわの肌触り、最高だわ!
オムレツも美味しい〜〜!
卵料理を口にするなんて何年ぶりかしら?」
「この野菜スープもなかなかなのだ!
でも僕が育てた野菜ほどではないのだ」
「そうね、フェルの育てた野菜は天下一品ですものね。
早くこの国の人たちにも、フェルの育てた野菜を食べてもらいたいわ」
フェルと一緒に、楽しく食事を取りました。
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