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12話「ジャネットの帰国」



翌朝、ジャネットは私を起こしに来ませんでした。


なので自主的に起きて、身支度をしました。


服は祖国から着てきた、ハデハデのドレスしかありません。


ジャネットがいる間は、とりあえずこのドレスを身につけておきましょう。


あのけばけばしいメイクを自分の顔に施すのは憂鬱ですが、ジャネットが国に帰るまでは、あのメイクをしておきましょう。


全ては彼女を油断させ、国に帰らせるためです。


支度を終えた私は、フェルと共にリビングに向かいました。



 ◇◇◇◇◇



リビングでは、ジャネットが荷造りをしていました。


「アリアベルタ様、昨夜は王太子に袖にされたそうですね」


ジャネットは私の顔を見て、目を細め、唇を歪め、嫌味な笑みを浮かべました。


「初夜に『愛するつもりはない』や『お飾り妻にする』などという言葉を言われたら、わたしだったらみっともなくて自害しますわ」


ジャネットは、見下すような笑みを浮かべていました。


昨夜の会話を聞いていたようです。


壁にコップをつけて聞いていたのかしら? それともドアに耳をつけていたのかしら?


どちらにしても悪趣味ですね。


「夫に愛されず、お飾り妃にされた挙げ句、数年後には離縁されるなんておかわいそうに」


口では「おかわいそうに」と言いながら、ジャネットの唇は歪み、彼女の口角は上がっていました。


「このことを報告をしたら、あの方もきっとお喜びになりますわ。

 特別ボーナスをいただけるかもしれません」


ジャネットはほくそ笑んでいました。


私が推測した通り、ジャネットは誰かに命令されて、私に嫌がらせをしていたようです。


「あなた様が誰にも愛されず、惨めに暮らすことが確定しました。

 なのでわたしの役目は終わりです。

 国に帰りますね」


ジャネットが、満面の笑みを浮かべてそう言いました。


私は心の中でガッツポーズをしました。


理由はどうあれ、彼女がいなくなってくれるのがとても嬉しかったのです。


もうゴテゴテしたドレスを着なくても良いのですね。


ケバケバしいメイクをする必要もありません。


「では、ごきげんよう。

 そうそう結婚式で使用したアクセサリーとウェディングドレスは祖国に持ち帰るように命を受けております。

 輿入れの際に身に着けていたドレスと、ナイトドレスはかさばるので置いて行きますから、そのままご使用下さい」 


ジャネットは、嫌味な笑みを浮かべてそう言いました。


「国からついてきた兵士も御者も、わたしと一緒に国に帰ります。

 今日から王女様お一人で、この国で暮らすことになります。

 皆があなたを嫌っているこの国で、惨めったらしく暮らしてくださいね」


ジャネットはそれだけ言うと、鼻歌を歌いながら部屋から出て行きました。


「意地悪メイドが国に帰ったのだ!

 清々するのだ!」


フェルがジャネットの後ろ姿に、あっかんべーをしていました。


私も、フェルのようにあっかんべーをしてやりたい気分です。


邪魔者は消えました。


これで、いつでもどこでも、気兼ねなくフェルとおしゃべりができます!


「意地悪メイドの頭に、熟した果物が落ちてくる魔法をかけてやるのだ!」


フェルがプンプンと怒りながら、そう言いました。


「落ち着いて、フェル。果物がもったいないわ」


フェルにはそう言いましたが、彼女にはそのくらいの罰を受けてもらいたいのが本音です。


「フェル、ここからが本番よ!

 昨日、フェルが寝てる間に王太子殿下から庭の使用許可をもらったの。

 朝ご飯を食べたら、畑仕事をするわよ!」


じゃがいもに、りんごに、梨に、桃に、蜜柑に、植えたいものは沢山あるのです。


「待ってましたなのだ!

 …………でも、ご飯はどこなのだ?」


フェルが可愛く小首をかしげました。


「あっ……」


フェルに言われて、クレアさんの一昨日の反応を思い出しました。


彼女はジャネットが食べ物を粗末にしたことを、酷く怒っていました。


ジャネットの行動は、私の命令だと思っているはずです。


食べ物を粗末にする私のところには、誰もご飯を運んで来ないかもしれません。


そうなると、じゃがいもを収穫するまで、食べる物がありません。


今から庭を耕して種芋を植えれば、明日には収穫できるはずです。


幸い離宮には、小さいですがキッチンがついています。


簡単な調理ぐらいはできます。


「ごめんなさい、フェル。

 じゃがいもの収穫をするまで、水だけで我慢するしかなさそうだわ」


「え〜〜〜〜!

 そんなの嫌なのだ〜〜。

 久しぶりにひもじいのだ〜〜」


「ごめんね、フェル。

 明日まで待って」


フェルを飢えさせないためにも、急いで庭を畑に変えなくては!


そのときリビングの扉がノックされる音がしました。


「はい。どなたですか?」


「失礼いたします」


私が返事をすると、クレアさんが入ってきました。


クレアさんは食事用のワゴンを押していました。


ワゴンには銀製の蓋がかけられているので、中身はわかりません。


ですが、とっても美味しそうな香りがする。


「朝食の時間になっても、王太子妃様付きのメイドが食事を取りに来ないので、わたしがお食事をお持ちしました」


良かった。


朝食は作っていていただけたようです。


果物が収穫できるまでの半年間、じゃがいもだけで過ごすことになるかもと、心配していました。




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