戻らない二人
サザンカとルーベルの街への圧について話し、考慮する事を約束したルーク。
先ほど兄であるノエルは、弟のルークを寂しそうに、だが羨ましそうに見つめていた。
そしてルークもまた、寂しそうに、だが羨ましそうに人の輪にいるノエルを見つめていた。
「……ルークさんも……そんな風にノエルさんを見つめるんですね」
「?」
サザンカの言葉に、何の事かと疑問の表情を浮かべるルーク。
そんなルークに、サザンカはノエルが話していた内容を伝えた。
「兄さんがそんな事を……。
でも……やっぱり、僕より兄さんの方がすごいんだ。
何をさせてもそつなくこなして、明るくて皆から好かれて……兄さんの周りにはいつも人がいて笑顔で……僕の周りには……」
「ルークさんだって、周りに人……いるじゃないですか」
「僕の場合は、街の運営とか商業的な話が多いんだ。
僕自身を見ていない……。
欲しいのは……僕の知識や見解……そしてウィスタード家の名前だよ」
「……」
『『……』』
「……少し席を外すね……」
そう話すルークは、やはり寂しげに微笑み、時折諦めたような表情を浮かべ、サザンカ達に背を向けて会場から出て行った。
そんなルークに言葉を返せなかったサザンカ達は、彼の寂しそうな背中を見つめる事しか出来ずにいた。
『……なんだか……お二人ともお互いに何かを抱えている……そんな感じですわね……』
「……うん」
『兄弟って言っても、いろいろあるんだろ……。
……なんか適当に取ってくる』
オミがサザンカ達のもとを離れ、料理が並ぶテーブルに向かった直後。
接待にひと段落がついたのか、ノエルが人の輪からサザンカたちのもとへと戻ってきた。
「いやぁ~、やっと落ち着いたよ~。
って……あれ……なんか人数減ってないかい?」
「あ~……えっと……みんな自分の用事で出て行ったり、あっちのテーブルにいたり……」
「そうなんだぁ」
サザンカが、会場の入り口や料理が並べてあるテーブルを指しながらノエルに説明をした。
その説明を聞いたノエルは、ジッと会場の入り口を見つめていた。
「ノエルさん? 何か気になる事でもあるんですか?」
「……いいや」
「あの……急でこんな時に聞くのは違うと思うのですが……。
伯爵家は……行方不明の事件の事、どこまで把握していますか……。
伯爵家なら……人脈もあるので、情報が入ると思ったのですが……」
「……残念だけど、何も情報は入ってこないんだ……。
僕らも、同じ種族が行方不明だと聞いて、出来る事はしているんだけど……」
『……本当に何もないんだな?』
サザンカがノエルと話していると、料理や飲み物をお盆に乗せたオミが戻ってきた。
『ほれ、これはあげはの分……こっちはオウカの分な』
「ありがとう!」
『ありがとうございます!』
オミは持っていたお盆を差し出し、飲み物をサザンカとオウカに取るように促した。
そして再度、ノエルから情報を聞き出そうと視線を向けた途端、会場中の照明が落ちた。
だが、照明が落ちたのは一瞬の出来事で、すぐさま会場の真ん中に白色のスポットライトが当てられた。
「な、何事ですか?!」
「大丈夫、パーティーの催し物だよ。
魔法やスキルを使った大道芸さ。
それじゃ、パーティーを楽しんでね! 僕はちょっと席を外すよ!」
そう言い残し、ノエルは静かに人の輪を縫うように会場の外に出て行った。
『……皆さん……行ってしまわれましたね……』
「うん……。
パーティーを楽しむっていっても……行方不明になっている人たちを思うと楽しめないし……ヒスイやレイさんも戻って来ないし……」
『……少し遅いな……。
嗅覚で全体を把握するのは、あの二人には容易い事なんだがな……』
『連絡を取ってみましょうか』
「さっそくスキル発動だね! よ~し……スキル、『以心伝心』発動!」
オウカの言葉に意気込んだサザンカは、心の中でヒスイとレイの事を念じ、話しかけた。
だが、どういう訳か、二人と連絡が通じなかった。
「え、な、なんで?! 大道芸さん達はスキルも魔法も使えているのに!」
『……半径は1キロまで……だったな……。
全然、繋がるはずだが……』
『……風魔法を少し使ってみてますが、問題なく使えますわ……』
「それじゃぁ……ヒスイ達の身に何かあったんじゃ……」
『あの二人は強いからな……ヘタな事にはならないと思いたいが……』
いまだパーティーが行われる中、連絡のつかないヒスイとレイの事が気になりだしたサザンカ達。
三人は、どう動こうか話し合ったのだった。
***
一方、連絡のつかないヒスイとレイ、その二人はというと。
時は少し遡って、二人はパーティー会場を出たのち、しばらく屋敷内を探索していた。
『……やっぱり……どこも臭いが少ない……』
『そうだね……。
しかし……この屋敷広すぎる……。
手分けするのも危険だし……』
『……うん……。
臭いやレイの感知スキルで、人の気配を感知しながら上手くかわしているけど、いつまでもつか……』
『それにしても……この屋敷が怪しいと思っていたんだけど……。
もし……捕らわれた人がいるなら、スキルに反応するはずなのに……』
『……反応がないんだね……。
それなら、逆にこの臭いが少ないのを利用してみる?』
『臭いが少ない方に向かって調べる……という事だね。
やってみよう』
二人はスキルや嗅覚を活用しながら屋敷内を歩き回り、次第に臭いが少ないと感じる方に向かって歩いていた。
屋敷の奥まで来た二人は、他の部屋よりひときわ大きい扉の前で足を止めた。
『ここ……一番臭いが少ないな……。
もはや臭いを感じないと言っても過言じゃない……』
『……人の気配もないよ……。
中……入ってみる?』
『……そうだね……入ってみよう』
レイが大きい扉の右側のドアノブを握り、一呼吸をしてゆっくりとドアを開けた。
開いた先の部屋に足を踏み入れると、目の前に広がっていたのは部屋いっぱいに並ぶ本棚と、カーペットに乱雑に積みあがっている本たちだった。
『ここは……屋敷の図書室?』
『……レイ……誰か来る……。
この臭いは……』
二人が部屋の中を見渡していると、部屋の外から話し声が聞こえてきた。
どこにも隠れる場所がない事に意を決した二人は、その声の主に立ち向かう姿勢を見せる。
そうして二人が身構えていると、部屋の扉が開かれた。
『あ、あなたはっ……』
「あれ、君たち……どうしてここに?
そうだ、君たちにも協力してもらおう……この街のために……」
廊下から現れた人物に意表を突かれた二人は、けむり玉を用いられて、為す術もなく眠らされたのだった。




