お断りします……
サザンカ達がウィスタード家の衣裳部屋にてパーティー衣装に身を包んだ直後。
ドアがノックされ、勢いよくドアが開かれてノエルが入ってきた。
「ボンジュ~ル!! 皆の衆~!!」
「あ! ノエルさん! お邪魔してます!」
「さっきぶりだね! マイハニー……いや、プリンセス!」
ノエルは衣裳部屋に入って来るなり、サザンカに駆け寄って膝をついた。
そしてサザンカの手を取って、手の甲に軽くキスをした。
『ボンジュールって……どこのあいさつだよ……』
『あげは様に……キ……キスを……』
『……姉さん……落ち着いて……握っている拳を納めて……』
『……騒がしさ2倍ですね……』
「兄さん……お付き合いや婚約もしていないのに、ハニーはないと思う」
『そういう問題か?』
「……ふぅむ……それもそうだね……じゃぁ、婚約をしよう! 今から!」
「え?! あ、あの、急に?!」
『あげは様が珍しくタジタジですね……』
『それもそうだな。
たまには新鮮でいいな。
……ほっとくか』
「ほっとかないで!! 私、婚約も結婚も興味ないの!」
「そうなのかい?! 女の子はキレイな純白のドレスに憧れるもんじゃ……」
「どっちかというと、ドレスより白無垢の方が着たいです……。
って、そうじゃなくて!」
「白無垢……ぜひ作らせよう!
どんな衣装を着ても、あげはちゃんはキレイで可愛いだろうな~」
サザンカの話を聞くこともなく自分の世界に入ったノエル。
彼は目を閉じ、この上なく楽しそうに未来に思いを馳せている様子だ。
「ノエルさん! 人の話を聞いてください!!」
『……それ……いつも俺らが思ってる事……』
「……これに懲りてもっと人の話を聞きます……」
『頼んだ』
「……はぁ~……。
兄さん……ふざけてないでパーティー……始まるよ……」
「ふざけてないよ! 僕はいたって真面目だ!
でも……パーティーに遅れるわけにはいかないね!
では……お手をどうぞ……マイプリンセス」
ルークの言葉に賛同したノエルは、サザンカをエスコートするために彼女に手を差し伸べた。
そのノエルの手を取ったサザンカだったが、彼の言動に終始タジタジだ。
「プ……プリンセスでもないのですが……」
『そうですわ! あげは様はプリンセスではありません! どちらかというと女神様ですわ!』
「女神……?」
『あ……えっと……今のは言葉のあやと言いますか……』
「……女神。
……そうだね! あげはちゃんは女神様にも匹敵する可愛いさだ!」
「……。
(バレなくてよかったけど、人の話を聞いてくれない……。
私……もっと皆の言葉に耳を傾けよう……)」
ノエルの言動を目の前に、自分自身、いつもこんな感じなのかと目の当たりにしたサザンカは、秘かに心に誓ったのだった。
そうして、少し騒がしいながらもノエル達とパーティー会場に向かった一行。
彼らが会場に入った際、すでに招待客はみな集まった状態だった。
招待客に挨拶をするために、ノエルはサザンカのもとから離れ、会場の中心に向かって行った。
会場の中心に立ち、招待客の視線を集めたノエルは、手短に挨拶を済ませ、パーティー開始の掛け声を放った。
そして再びサザンカ達のもとに戻ってきたのだった。
ノエルと入れ替わるように、今度はノエルの弟、ルークが招待客に呼ばれて行ってしまった。
「……なんだか……お客さん達に挨拶をしたり、接待をしたり……ノエルさん達って忙しいですね……」
「まぁ……それが僕らの仕事の一つだからね!
でも、忙しいからって、君に寂しい思いはさせないよ!」
「あ~……その事なんですが……やっぱり、結婚はお断りします……婚約も……」
「どうしてだい?!」
「先ほども言ったように、結婚とか、婚約とか興味ないので……。
(そもそも女神だし……種族違うし……結婚の概念もないしね……)」
「そっかぁ……残念だな~……。
……ルークが好きとか……そういう訳でもなく?」
「ルークさん? どうしてここでルークさんが?」
「あの子は僕より商談や政治の駆け引きが上手なんだ。
立ち回りが上手というのかな……魔法だって僕より上で……僕よりも優れているところがいっぱいで……正直、羨ましいよ」
「ノエルさん……」
『ノエル様……つかぬ事をお聞きしますが……ウィスタードやルーベルの街の政治はルーク様が?』
「そうだよ。
ルークは僕が治めていると思っているけど、実質、ルークの案ばかりが通っていて、それをまとめているのが僕。
だから結果的に統治しているのはルークだよ。
あの子は僕と違ってすごく優秀で出来る子なんだ。
両親もあの子ばかりに構ってたなぁ……」
「それで……私もルークさんの事を好きだと思ったのですね……」
招待客と話しているルークを見つめながら彼の事を話すノエル。
ルークの話をしているノエルは、どこか寂しそうに、それでいて羨ましそうに見つめていた。
ノエルがサザンカ達と話していると、今度はノエルが女性たちに話しかけられた。
ノエルは断ることも出来たはずだが、立場上そういう訳にもいかず、女性たちとともに人の輪の中に行ってしまった。
その場に残されたサザンカたち五人。
その中で、ヒスイとレイが動き出した。
『……僕たち……少し抜ける……』
『ここはお任せします』
サザンカたちが会場の外に出て行くヒスイとレイを見送ったのと同時に、男性陣の輪の中からルークが戻ってきた。
「あれ……兄さんたちは……」
「ノエルさんはあちらで、レイさん達は……えっと……お手洗いです!」
「……そう……」
戻ってきたルークが辺りを見渡していると、ノエルの居場所やレイたちの居所を伝えたサザンカ。
そのサザンカの言葉にさほど興味がないのか短く返事をすると、女性陣に囲まれているノエルに視線を移した。
「……ルークさん……」
「……なに?」
「その……ルーベルの街で……行方不明の事件について圧がかかっていると聞きました……。
圧を掛けるのを……やめて頂けませんか……」
「……圧……か……。
僕はただ、街の人たちが不安な日を送っているのが見ていられなくて、早く解決するようにギルドに行っただけなんだけど……。
向こうがそう感じたなら……うん……もう少し伝え方を考慮するよ」
サザンカの言葉に少し考える素振りを見せたルークは、軽く頷いてサザンカと約束を交わした。
そして彼もまた、兄と同じように少し寂しそうな、羨ましそうな視線をノエルに向けたのだった。




