ため息の理由
ウィスタード家を出たサザンカ達は宿を探すため、ウィスタードの街の中心地に向かって歩いていた。
その道中、オミたち四人は深いため息を吐いたのだった。
「ビ……ックリした~……四人とも急に深いため息するもんだから……。
……どうしたの?」
サザンカの問いに、どう返事をしようか困ったような表情を浮かべる四人。
『……』
『あの屋敷……なんか落ち着かなくてな……』
「落ち着かないって……慣れない場所だったから?
大きなお屋敷でいっぱいのメイドさんがいて……街の領主様の前だったし……」
『そういう落ち着かないじゃねぇよ……』
『……あのお屋敷……臭いが少なかった……』
「臭いが少ない? それってどういう事?
メイドさんたちがお屋敷をキレイにしているからなんじゃ……」
『そうかもしれませんが、ヒスイが言っているのはそういう意味では……』
「?」
ヒスイやオウカの言葉に、ますますわからないと疑問の表情を浮かべるサザンカ。
そんなサザンカに今度はレイがわかりやすく説明をした。
彼らがあのお屋敷で感じた違和感。
「臭いが少なかった」というのは生活臭とでもいうのか、洗濯した衣服の臭い、食事の臭い、家具の臭い……あらゆる臭いが家の中にはあるはずだ。
それらが通常よりも少なく感じたのだと、レイは説明した。
「それって……やっぱりメイドさんたちが日ごろから掃除してるからなんじゃ……」
『ですが、こうも考えられませんか……。
何かを隠すために臭いを消している……という事です』
「え……それじゃぁ、レイさん達はノエルさん達が怪しいと思ってるの?!」
レイの言葉に驚きを隠せないサザンカは、四人の前に飛び出て立ちはだかった。
『……そういう事になります。
門番のあの笑顔も……何か引っかかります……』
「でも、街の領主様だよ?!
それに、種族に関係なく行方不明だし、魔族の人達だっていなくなってるのに……同じ種族のノエルさんが誘拐なんてそんなの考えられない!」
『……領主様たちが怪しいというだけで、誘拐犯という断言はできませんわ……。
ですが、今の段階で誘拐犯ではないという断言も……できませんわ……』
「なら……納得するまでとことん調べよう!
私、聞きたい事もあるの……。
ルーベルの街に圧を掛けているというライナーさんの話……。
もし、本当に圧を掛けているなら、やめるように言いたい」
サザンカのまっすぐな瞳を見た四人は、観念したようにため息を吐いた。
『……ったく……敵わなねぇな……』
『……うん……。
あげは様のそういう真っ直ぐなところ……嫌いじゃない……』
『人を疑わない……お優しいところもですわね』
『……ですが、あげは様……人を疑う事を覚えて欲しいものです。
人の心には少なからず闇があります。
善良な人なんてごく一部ですよ。
魔族も……パーソン族も、亜人も……何かしら心に闇があります……。
もちろん、我々魔獣も……』
「……そうかもしれない……。
ずっと神界にいて……いざ下界で生活してみたら理不尽な事も多いし、言いがかりもあった……。
でも……それでも……そうなった原因があるはず……。
私は……マツリカお姉さまが人々に与えた「穏やかな心」を信じる。
そのために……世界がこうなった理由を……闇の原因を調べるの……」
『……はぁ~……。
そんなあげはに付いて行くって決めたのは俺たちだ。
なら、それも含めて調べるか~』
『……あげは様は……疑う事をしらない……困った女神様だね』
サザンカの言葉に、呆れたように頭を掻きながら視線を仰いだオミ。
レイやオウカ、ヒスイは、優しい笑みを浮かべた。
『そうですね。
では、今夜のパーティーで出来る範囲で調査をしましょう。
あげは様は素でいてください』
『……僕らで探る……』
「そんな! 私も調査を手伝うよ!
こう……隠密とか! スキルもあるし!」
サザンカは、身振り手振りで調査に乗り気な事を伝えた。
『あげは様……調査はヒスイやレイが得意分野ですわ』
『あげははボロが出そうだしな。
やめとけ』
「えー……」
オミの制止に口を尖らせるサザンカ。
そんなサザンカをレイがなだめに入った。
『何かありましたら、あげは様にお願いしますので……それまで耐えてください』
「……本当?」
『はい、本当です。
頼りにしていますよ。
女神、サザンカ様』
「そこまで言われたら~……ぐへ、ぐへへ」
『……笑い方変だぞ……つか、気持ち悪い……』
「気持ち悪いって何よ! 女神様に向かって失礼な!」
『笑い方的に女神の欠片もねぇよ……』
「オミの意地悪!! もう知らない!」
『まぁまぁ、あげは様……オミ様は~……えっと……性格がアレなだけで、えっと……』
サザンカやオミ、オウカが話している傍ら、レイとヒスイは小声で話していた。
『……レイは……あげは様の扱い上手だよね……』
『ヒスイ……言い方……。
そんなつもりはないよ……。
でも、なんだかんだで頼りになるし、突破口にもなるお方だ。
きっと今回の事も、今後も……あの真っ直ぐさがカギとなる……と、思っているんだ』
『……うん……レイのいう事……わかる気がする……。
あげは様は……お日様みたいに優しくて……温かい……』
『……この事件……絶対に解決してみせるよ。
これ以上、あげは様にご心労を掛けたくないからね』
『……うん……。
悲しむ顔……見たくないから……頑張る……』
目の前でじゃれ合うサザンカ達に視線を向けながら、レイやヒスイは胸に刻んだ。
その後、サザンカ達は話しながらも、再び街を目指して歩き、街で唯一の大きな宿屋へと足を運んだのだった。




