数は関係ない
サザンカ達が掲示板の前で依頼に見入っていると、ギルドマスターのライナーが中庭の方角から姿を現した。
「あ、ライナーさん! お疲れ様です!」
「おぉ、嬢ちゃんたち、まだここにいたのか。
何か依頼を受けるのか?」
「そのつもりはなかったんですが……ギルド内を歩いていたら、この依頼の量が目に入ったので……」
「あぁ……その依頼な……最近急に増えてな……」
ライナーは話しながら、掲示板の前に立つサザンカ達の隣に並んで立った。
『見た所、年齢も性別もバラバラのようですが……』
「あぁ……種族もな……。
パーソン族や亜人……魔族もだ……」
『……共通点は……』
「皆……街の外でいなくなってる……くらいだな。
だが、どの時間帯にいなくなっているのかはわからない。
依頼主によると、街の外に出たまま帰ってこないそうだ……」
「そんな……」
「誘拐とか人身売買……いろんな噂がたっているが……見つかったやつもいないし、手掛かりも何もない……。
ギルドとしても手の施しようがないんだよ……。
とりあえず、依頼があるうちはこうして掲示板に貼ってるんだ」
『報酬は……書かれていないのですね……』
『付けにくいとか?』
『……何も情報がないのに、人を探すのは雲の中から雲を探すようなもの……。
どれだけの時間を費やすかもわからない……この依頼のためにどれだけの装備を整えたらいいのかもわからない……』
『……リスクしかないよね……』
「まぁ……兄ちゃん達の言う通りだ……。
報酬は付けにくく、リスクが高すぎるのに、メリットが見えない……だからこうして依頼が増える一方で解決されずにここに残るわけだ……」
今までライナーとレイ達の話に耳を傾けていたサザンカは、掲示板に貼ってある依頼の紙を全て千切り取り抱きかかえた。
「……ライナーさん……この依頼……全部受けます……」
「え……だが……えらい量だぞ?
ここにあっただけでも、ざっと15近くあるし……ここに貼られていないが、貼る予定の依頼もまだ10近くある……」
「……数なんて関係ありません……。
これだけの人数がいなくなっているという事は、この数ほど……悲しんでる人がいるという事……それを放っては置けないです。
……なので、この依頼を受けます!」
「わかった……手続きをしよう。
それと、ここに貼る予定だった依頼も持ってくるから、少し待っててくれ」
サザンカのまっすぐな瞳を見たライナーは、静かに頷き、サザンカから依頼の用紙を受け取って依頼受付カウンターの奥に行ったのだった。
『……あんなに依頼があったのに、なんの手がかりもないのは変な話……』
『ほんと……ますます妙ね……』
『んで? あの依頼……本当に全部受けるつもりか?』
「もちろん! 数なんて関係ない! 皆見つける!」
『……わかりました……。
あげは様が決めた事です……。
われわれはそれに付いて行くだけですので』
「ありがとう! レイさん!
それに、こういうのって、皆が一番得意でしょ?」
『『『『???』』』』
「だって皆……狼さんだし。
鼻が利いて、人探しにはうってつけじゃない?」
サザンカの言葉に意表を突かれた皆は、苦笑いを浮かべた。
『そういえば、そうでしたわね……』
『『……』』
『……。
ま、あげはにしては鋭いじゃねぇか』
「私にしてはってどういう意味?!
というか、皆……自分たちが狼さんだって事、忘れかけてたでしょ!
人型でいる事が多いからって、本質を忘れちゃダメだよ!」
『あげは様にそのような事を言われる日が来るなんて……成長しましたね……』
「レイさんは誰目線?!」
レイが大げさにも涙をぬぐう素振りを見せた事に、大きく反応をしたサザンカ。
そんなやり取りをしているサザンカ達のもとに、手続きが終わったライナーが戻ってきた。
「待たせたな。
これが全部の依頼書だ。
枚数が多いからな、冊子みたいにまとめてみた」
「ありがとうございます!」
「それと、その依頼書に依頼主の家の情報が書かれている。
もし何か情報を聞きたいなら尋ねてみるといい。
それじゃ、何かあればまた来てくれ。
ギルドでも出来る限り情報収集して協力しよう」
「わかりました! それではさっそく動いてみます!!」
「おぅ、気ぃ付けてな」
ライナーに別れを告げギルドを出た一行は、ひとまず食事処へと足を運んだ。
食事処へと着いた一行は、適当な場所を選び、各々料理の注文を終え、料理が来るまでの間、例の依頼の話を持ち出した。
『さて……どう動くんだ?』
『やはりここは情報収集……でしょうか……』
『……鼻が利くとはいっても、対象者の匂いがわからないと匂いを追えないし……』
「まずは依頼主さんの家に行って、どの辺りでいなくなったかの経緯を聞かなくちゃ」
『あげは様の持ってる依頼書を分けて、二手に別れましょう。
今日の残り時間は情報収集に行動を絞ります。
明日からは本格的に人探しをしましょう。
それまでに必要な買い物も各自、済ませておく……こんな感じでどうでしょうか』
「レイさんの案に賛成!」
皆もサザンカと同じく異論はなかったのか、笑みを浮かべて頷いた。
皆がさらに事細かに作戦を立てていると、注文した料理が運び込まれ、一行は一時話しを中断した。
『まずは腹ごしらえだな』
『あげは様は……パンケーキにスープだけでよかったんですか?』
「うん! 私……庁舎で軽く食事したから……。
皆は、相変わらずお肉だね!」
『……サイコロステーキとバターライス……この組み合わせ好き……』
『あと、サラダとトマトスープですね』
『肉だけでいいんだが……米とか野菜も食えってレイがうるさいからな』
「レイさんって……皆のお母さん?」
『そういうつもりはないですが……』
『面倒見がいいだけですわ』
皆は談笑しながらも、依頼に関する今後の話し合いも交えて美味しそうに料理を頬張ったのだった。




