攻撃はヘタクソでも……
サザンカが、街の子達のおかげで元気を取り戻した日の翌日。
この日もサザンカは、朝早くから昨日に引き続いて鏡を覗きながら勉強をしていた。
今回はテーブルに向かわず、床に座り、ベッドにもたれる形で勉強をしている。
オミ達狼は、人型を解き、ベッドの上や床の上に伏せ、くつろいでいた。
『昨日からずっと勉強していて飽きねぇのか?』
「うーん……正直に言うと、文字ばかりであまり好きではない……けど、必要な事だからしてる……って感じかな」
『好きでもないお勉強を万物のために行うとは……わたくし、なんだか涙がほろりと……』
『オウカは大げさだね。
ですが……こうして話を聞いてると、あげは様が女神様だと実感しますね』
「ふっふっふ、忘れがちだけど……私、これでも女神だからね。
勉強の一つや二つ、どんと来いよ!」
『そんなドヤ顔されてもな』
「オミったら……またそんなこと言って……。
それにしても……あのー……ヒスイ? どうしてずっと私の膝にあごを乗せてるの?」
狼の姿で唯一、ヒスイだけが勉強しているサザンカに寄り添い、座っている膝の上にあごを乗せてくつろいでいるのだ。
『……あげは様……いい匂いだから……』
「……昨日、あの後、宿のお風呂に入ったから、ゆず風呂の匂いは取れてると思うんだけど……」
『……ゆずの残り香……』
「そうとう気に入ったんだね、ゆずの香り。
ふふっ、モフモフであったかい」
サザンカが寄り添っているヒスイを撫でていると、少しすねた表情のオウカが寄り添ってきた。
『ヒスイだけズルいわ……。
私もあげは様にナデナデされたいです……』
「ふふっ、うん!
オウカもおいで!」
ヒスイがサザンカの右側にいるのに対して、オウカは左側に寄り添い、ヒスイ同様にサザンカの膝にあごを乗せた。
『……』
『レイ……お前までそんな羨ましそうな顔して……』
『……オミも他人の事言えないと思うけど』
『……』
『ふっ……やっぱり』
『……うるせー』
オミとレイの会話をよそに、サザンカがオウカやヒスイと少し戯れたのち、再び鏡に視線を戻した。
「(文字ばかり読むのも疲れちゃったな……。
地球の様子で何か面白そうなものないかな~。
……あ……これ……こんなのがあるんだ……。
すごい……キレイ……。
これ……戦いに活かせないかな……)
……ねぇ、オウカ……私、修行で試してみたい事があるんだけど……」
『でしたら、今からでも参りましょう!』
『修行……ですか……。
たしか……街から出た所の炭鉱に行く途中に、平原がありましたね』
『……うん……そこなら魔物もいないし、修行にはピッタリだと思う……』
「よし、ならさっそく行こう!!」
サザンカが試したい修行があるとの事で、一行は出掛ける支度をして、宿をあとにした。
***
修行場所にピッタリだという場所に着き、さっそく修行を始める事にした一行。
『それで、あげは様? どういった修行をされるのですか?』
「えっとね、回避の修行!」
『回避? なんでまたそんな修行を……。
お前、逃げるの得意だろ』
「ただ逃げ回るのと、回避は別物だよ!
回避した先の攻撃~……みたいな!」
『へー……攻撃もまともに出来ないやつが正論言ってらぁ』
「攻撃はダメでも、回避はうまくなってみせる!」
『そういう事なら……オウカより、俺の方が適材適所だな』
そう言ったオミは、指を鳴らしながらオウカよりも前に出てサザンカに近づいた。
そんなオミの姿勢に、顔を引きつらせながら後ずさりするサザンカ。
「え……何……なんで?」
『しっかり避けろよ?』
「え、ちょ、うわーー?!」
『おらーー! ちゃんと避けねぇと、回避にならねぇぞーー!!』
後ずさりするサザンカに、容赦なく火魔法や風魔法など、多彩な魔法を繰り出すオミ。
そんなオミの攻撃を、直接受けないようにどうにか回避するサザンカ。
『……オミ様……容赦なさすぎではありませんか?』
『……あげは様に意地悪するの楽しんでる気がする……』
『そのようですね……。
はぁ……大人げない……』
オウカ達がサザンカの修行を見守る事、数十分。
サザンカは、体の使い方や、攻撃の見極め方のコツを掴んできたのか、逃げ回っていた動きが、次第に回避と呼べるようにまでなっていた。
『……はぁ、はぁ……まだ……やんのか?』
「まだまだ……はぁ……これから……」
サザンカが回避のコツを掴み始めた頃、オミのエネルギーも限界を迎え、それと同時にオミやサザンカの体力もかなり消費していた。
だが、サザンカは、掴み始めた感覚を忘れまいと、まだまだ修行をする心持のようだ。
『……はぁ……。
俺がムリ、疲れた。
レイ、オウカ、交代』
オミがレイやオウカに視線を向け、促すと、二人は頷き、オミに代わり、サザンカの修行に付き合う事にした。
「今度はオウカとレイさんだね。
二人とも、同時に魔法を使って! 全部避けれるようになりたいの」
『……わかりました。
では、安全を考慮して、結界魔法を……』
「レイさん……結界はいらないよ。
たとえケガをしても、それも修行のうちだよ。
みんなみたいに強くなりたいの……。
今は……攻撃がヘタだけど……せめて、回避が上手くできて、攻撃に回り込めたらな~……って思って」
『……いらぬ心配でしたね。
そういう事でしたら……容赦なくいきますよ!』
「うん! お願い!
オウカも、お願い!」
『承知いたしました!! では……参ります!!』
オウカは土魔法や風魔法を駆使し、レイは水魔法に氷魔法を駆使した。
途中、オミやヒスイも代わる代わる参戦したりしながらも、しばらく修行に打ち込んだ。
その協力もあり、サザンカの動きは、本人が思い描く回避の形になっていった。
サザンカ達が休憩を入れながらも修行を始めて数時間後、日が傾き始めた頃。
『あげは様……そろそろ……』
「そうだね……。
さすがにオウカやレイさんも体力とエネルギーが限界近いし……」
『あげは様も体力が……』
「うん……さすがに疲れた……」
『ちょっとずつ休憩を入れてたとはいえ、ここまで体力あるなんてな……。
さすがの俺でもここまでは体力ねぇよ……』
『……四人分の体力……すごい……』
『ですが、最初と比べると、回避も攻撃もさまになってきましたね!
あげは様は頑張り屋さんです!』
「えっへへ~、ありがとう!」
『そうなると、あとはエネルギーのコントロールだけだな』
「うん……どうにかしなきゃ……」
『ま、考えるのはまた後にして、宿に戻ろうぜ。
腹減った』
オミの言葉に皆が頷き、帰る支度をしてその場を後にして、宿へと戻っていったのだった。




