リスタート!
依頼の花を採取し、遭遇した花型の魔物を倒し終えた一行は、ルーベルの街に戻るため、道なりを歩いていた。
「……ねぇ……オウカ……」
『どうされました? あげは様』
「……さっきのイヤな臭い、取れてる?」
『えぇ、ちゃんと取れてますよ』
「……なら……どうしてみんな、ちょっとだけ私から離れて歩いてるの?
ヒスイに関しては、明らかに距離が離れてるし……」
『それは~……何と言いますか……』
『残り香ってやつだ』
『オミ様?! またそんな、デリカシーのない事を!』
『しゃーねーだろ。
ホントの事だし』
「……やっぱり……まだ臭うんだ……」
『臭うと言いますか……私達は、基本は狼です。
嗅覚が人の何倍もあるので、臭いがまだ、まとわりついているのです』
「……そっか……」
『あ、で、でも、わたくしたちは嗅覚のせいで……というのはありますが、他の方々は何も臭いはしないと思われますので、ご安心ください』
「……うん」
サザンカが皆との距離を少々感じながら歩いていると、視界の端に小動物の姿をうつした。
「……ウサギ? あんなにケガをしてる……」
『……どうやら、あのトラ型の魔物に狩られているみたいですね。
あの魔物はティグレリスと言って、土魔法を得意とします。
こちら側から何もしなければ襲ってこないですよ』
「……私、あの子助ける」
サザンカがレイの説明を聞き終えたのち、傷のあるウサギを助けようと足を向けた矢先、それをオミの言葉によって制止された。
『やめろ。
自然の摂理だ。
どうせお前の事だから、スキルを付与するつもりだろ。
スキル付与の意味を……もう少し考えろ。
誰のために、何のために力を使うのかが重要じゃねぇのか』
「でも……」
『……。
あのウサギにスキルを付与して強くなったとする。
ティグレリスからは逃れるだろうな。
だが、もし、そのウサギが今度はティグレリスを襲ったら?
次はティグレリスにスキルを付与して強くするのか?』
「……」
『魔物と戦えるように、下界にいる俺たちにスキルを付与してくれたのはありがたいが……。
追放された時に起こった戦……あの時のスキル付与は本当に必要な事だったのか?』
『オミ様、それ以上は……』
「……戦……止めたかったから……。
どっちかがズタボロで負けるなんてイヤだったから……」
『なら、スキル付与の方じゃなくて、何か他に方法があったはずだろ。
俺たちを助けてくれた時みたいに……』
「……。
(ごめんね……うさぎさん……)」
オミの言葉に静かに頷いたサザンカ。
サザンカは、キュッと心が掴まれるような感覚になりながらも、ウサギを助ける事無く、自然の摂理に伴って再び街を目指して歩いたのだった。
***
一行は、あの後は何事もなくルーベルの街に無事に到着した。
「……皆……このままギルドに向かうんだよね……」
『依頼の花たちをギルドに持って行って、報酬を頂かないとですから』
「じゃぁ……これ……。
私……先に宿に帰るね」
一行が街に着き、そのままギルドに足を向けていた。
そんな中サザンカは、依頼の花をアイテムボックスから取り出し、レイに渡した。
そして、声に張りがないまま皆にそう告げ、トボトボと宿に向かって歩き出した。
オミたちは、そんなサザンカの少し寂しく見える背中を見つめていた。
『あげは様……。
わたくし、あげは様と一緒にいます。
あげは様! お待ちください! 一緒に参ります!!』
『私もあげは様のもとに行きます。
オミ、これ、頼みます』
オウカとレイはトボトボと寂しげに歩くサザンカの後ろをついて行き、花を託されたオミは、ヒスイと一緒にギルドに足を向けたのだった。
オミたちと別れ、宿へ向かっているサザンカ。
先ほどから寂しそうに元気のないサザンカの背中に、かける言葉が見つからないでいるオウカとレイ。
三人が無言で歩いていると、前方から猫耳の二人の女の子が走ってきて、サザンカにぶつかった。
その女の子たちは前を向いておらず、サザンカも下を向いて歩いていたため、ぶつかったのだ。
「おねーちゃん、ごめんなさい!!」
「ごめんなさい……」
「ううん……大丈夫だよ……。
あなた達は大丈夫? ケガはない?」
「「大丈夫!」」
「なら、よかった」
子ども達の無事を確認したサザンカ。
力ない笑顔を子ども達に向けたサザンカは、無意識でため息を一つついた。
「……おねーちゃん……なんか、元気ない?」
「そんな事……ない、よ……。
……はぁ」
「やっぱり元気ない!」
「そうだ……元気ない時はあれだよ……」
「うん、あれだね! おねーちゃん、こっち!」
そう言ってサザンカの手を引く二人の女の子。
疑問の表情を浮かべながらも、子ども達に引っ張られるがままになるサザンカと、同じく疑問の表情を浮かべ、彼女たちの後をついて行くオウカとレイ。
子ども達に連れてこられた場所は、どうやら子ども達の住む家のようだ。
「おねーちゃん、こっちでお着替えだよ……」
「さ、お洋服脱いでね! あ、大きいおねーちゃんとおにーちゃんは入ってきちゃダメだよ! 元気がない人っておかーさんが言ってたから!」
さらに子ども達の案内で奥に連れてこられた場所、そこは脱衣所だった。
子ども達に言われた通り、脱衣所の前で待つことになったオウカとレイ。
サザンカはと言うと、子ども達に案内されるまま脱衣所の先にあるお風呂に入ることになった。
「おねーちゃん、お風呂……気持ちい?」
「うん……気持ちいいよ……。
それに、すごくいい匂いがする……」
「えへへ~。
これ、ゆず風呂って言うんだって!
汚れたり、元気がない時に入るっておかーさんに言われたの!」
「おねーちゃん、元気がないように見えたから……。
だから、お風呂にお誘い……」
「ふふっ、ありがとう」
「おねーちゃんが笑った……よかった……」
「やったね! おねーちゃんをお誘いしてよかったね!」
「ほんと……いい匂いで気持ちよくて……心が落ち着く……。
(さっきまでのモヤモヤ……流れていくみたいな……そんな感覚……)
あ、私、あげはって言うの。
あなた達は?」
「ロゼッタ!」
「……リアナ」
「ロゼッタちゃんに、リアナちゃん……ありがとう。
おかげで元気でたよ。
(何のために……か……それなら……)
よし、ここからまた、リスタート!」
「リスタート?」
「……って、なぁに?」
「再出発……また頑張るぞー!! って意味!!」
ひょんなことからお風呂に誘われたサザンカ。
急だったが、おかげで身も心も晴れ、いつもの元気と笑顔を取り戻したのだった。




