家族同然
スキルを使って部屋を出たサザンカ。
サザンカが向かったのは、宿の裏にある小さな公園だった。
その公園の適当な芝生の上に座ったサザンカは、夜空を見上げながら、神界にいる皆の事を考えていた。
「(……姉様たち、元気かなぁ……。
そう言えば……あんなに怒ったアマノ様、初めて見たなぁ……。
むやみにスキルを与えたから……かな……。
知識が必要……マツリカお姉さまがずっと言ってたっけ。
今度こそ……何かしなきゃ。
神界を鏡で見るのは……ううん、やめとこ……。
神界と下界は時間の流れが違うから……きっとまだ数時間しか経ってないんだろうなぁ……。
ちょっとだけ……寂しいな……)」
サザンカは体を丸めて膝を抱えて顔をうずめた。
幾分そうしていただろうか。
いつの間にかサザンカはそのまま眠りについてしまった。
***
夜が明け、サザンカが目を覚ますと、そこは昨日いた公園の芝生の上ではなく、宿の床の上だった。
ただ、その床には布団が敷かれており、その上にサザンカに寄り添うようにオミ達四匹がピッタリとくっついて寝息をたてていた。
「(……皆……くっついて寝てくれたんだ……。
フカフカであったかい……)」
サザンカが、目の前にあるオウカの体を撫でていると、サザンカの頭の下にいたオミが静かに声をかけた。
『……起きたのか?』
「……うん」
『なら、もう枕はいらねぇよな』
「ぁいた?!」
サザンカが起きたのを確認したオミは枕の役割をしていた体を起こした。
その際にサザンカは軽く床に頭をぶつけたのだった。
のそのそと数歩歩いたオミは、大きく体を伸ばしてあくびを一つした。
サザンカとオミのやり取りで目を覚ましたオウカ達。
『あげは様、おはようございます。
お体……冷えてないですか?』
『……あんな場所で寝ていたから驚いた……』
「大丈夫だよ。
皆のおかげで温かかったよ、ありがとうね!」
『バカは風邪ひかねぇから、大丈夫だろ』
「バカってなによ、バカって!」
『ふふっ。
一番心配していたのはオミですよ。
急に『サザンカがいねぇ?!』って皆を起こしたんですから。
匂いをたどればすぐにわかるのに』
『うわ、バカレイ! 言うなよ!』
サザンカにくっついていた狼たちは一匹、また一匹と起き上がって人型になり、出かける支度を始めた。
『……サザンカ様……家に帰れないの……寂しい?』
「本音を言うと……ちょっとだけ……。
アマノ様や、姉様たちに会えないのは寂しい……。
でも……神界に戻らないで下界を旅するって決めたから……。
今後は弱音、吐かないよ」
『いつか、お前の家族に会ってみてぇな。
あと~、なんだ、今は俺たちがいて一人じゃねぇだろ。
たまにはホントの名前で呼んでやるよ、サザンカ様ってな』
「……なんか……オミに『様』をつけられるの違和感……」
『……上等だ、こら。
なら、呼び捨てだ』
『ふふっ、今は私たちがサザンカ様の家族同然……。
いつでもなんでも言ってください』
『そうですよ、サザンカ様! いつでもお傍にいますから!』
「レイさん……オウカ……ありがとう」
皆のおかげで、昨日の夜とは打って変わって穏やかな心持ちのサザンカ。
サザンカを含んだ皆が支度を終えると、昨日露店で買った食べ物をアイテムボックスから出して、朝食を済ませた。
『今日はどうしましょうか。
ギルドマスター殿との約束まで、まだお日にちがありますが……』
「うーん……。
あ! ギルドに行って、何か依頼を受けない?
まだランクは低いけど、それに見合った依頼を受けてみたり!」
『面白そうですわね! 新たな依頼! 行ってみましょう!』
サザンカの提案に乗り気な皆は、快く引き受けてさっそく冒険者ギルドへと足を運んだ。
冒険者ギルドに着いた一行は、さっそく依頼を受けるために依頼の張り紙のある壁掛けのボードを目指していた。
「依頼を受けるためには~……あ、このボードの張り紙を受付に持っていけばいいんだよね」
『この依頼はいかがですか? 花の採取のようですわ』
『……花?』
『薬にも毒にもなる花ですね』
「これにしてみよう! 私、受付行ってくる!」
サザンカが受ける依頼の紙をボードから引き抜き、受付へと持っていき、手続きを済ませた。
サザンカが手続きから戻ると、皆はさっそく依頼の花を摘みに街の外へと出たのだった。
『……そういえば、あげは様。
宿から出るとき、なにかしたの?
僕たち、鼻とか気配とか、結構敏感な方だと思ってたんだけど……』
「んーとね、皆を起こさないように、隠密のスキルを自分に付与したの」
『……隠密のスキル……』
「うん! 感知スキルを持ってる者や、五感が鋭い者達にも気付かれない効果なの」
『……そのスキル……僕、欲しい……』
「ヒスイは、隠密とか好きなの?」
『……表立って動くより、回復のサポートとか、裏工作の方が好き……』
「そっかぁ。
わかった、なら、ヒスイにも隠密のスキルを付与するね!
皆もいる?」
『……お前……そんな、パンいる? みたいな言い方……。
だから、創造神様に追放されるんだろ……』
「そうなの! ひどくない?! ファンタジーの物語の主人公たちは、バンバンスキルをもらって無双する人だっているのに、スキル付与した私だけ追放って!
それは直接アマノ様に言ったけど、ひどいと思うの!」
『……今の感じで考えもなしにポンポン付与するからだろ……。
そりゃぁ、親心で追放だってするわな』
「……親心……そうかもだけど……。
じゃぁ……とりあえず、ヒスイだけに付与するって事で……」
オミの言葉に納得のいかない様子で口をとがらせながらも、ヒスイにだけ自身と同じ隠密のスキルを付与したサザンカ。
アマノミコトの追放の意図や、オミの言葉の意味をわかったようで、わかってない 彼女が、それらを知るのはもうちょっと先の話だ。




