しばしの休息
空いたお腹を満たすべく街中を少し歩き、程よい食堂を見つけた一行は、そのお店に入ることにした。
「わ! けっこう人多い!
それに、すっごくいい匂いする~」
『あげは様、あちらのお席が空いてますよ、行きましょう!』
『……姉さん……強引にあげは様を引っ張って行った……』
『まぁ、でも、この人数で座れるようです』
『つっても、五人で座るには少し狭いけどな』
オウカの赴くままに一行は席に着き、食べたい物の注文を済ませた。
「オミ達は、前はどんな生活を送っていたの?」
『あ~……そういえば話してなかったな』
料理が来るまでの間、サザンカは以前から気になっていた事を聞いてみる事にした。
『私たちは、前は群れで生活してました。
その時の群れのリーダーは、オミ様だったのですよ』
「え、オミがリーダー?! なんか意外!」
『おい……お前が女神という事の方が意外だ』
『まぁまぁ……。
オミは口が少々悪い時がありますが、リーダーとしての素質は申し分なかったのですよ。
面倒見もいいですし。
ですが……群れに突然、あの狼たちが現れて……。
この面々以外は、あの者の考えが心に響いたようで皆、あちら側についてしまいました……』
「そっかぁ……。
それでオウカはオミに敬称をつけてるんだね」
『はい……以前の名残で……。
ヒスイやレイは敬称なしで呼んでいますが……わたくしはなんとなく……』
「そうだったんだぁ……。
あ! これも聞きたかったの!
人の言葉はどうやって覚えたの?
覚えようと思ったきっかけとかある?」
サザンカの言葉に、皆は顔を見合わせ、思い出しながら説明した。
『……人の言葉は、話しているのとか聞いて……身振り手振りを見て……長い年月をかけて覚えた……。
……きっかけは……あの時だよね……。
この世界に初めて魔物が現れた日……』
『あぁ! ザクロ様な!
俺たちを助けてくれた大恩人だ!』
「……え、ザクロ様? 大恩人?」
『そうだぞ!
あの日、魔物を風魔法で一掃して、俺たち獣も分け隔てなく助けてくれたんだ!
それに、ザクロ様は孔雀なのに人の言葉を話せて、風魔法も強くて、親分って呼びたくなるくらい、かっけーんだ!!
ザクロ様に憧れて、人の言葉を話したくて、人に近づいたんだ。
また会いてーなー……』
「……そのザクロって……独特な口調してなかった?
てやんでぃ……とか、なんとか……」
『……そんな口調をしてたけど……あげは様、知り合い?』
『そういえば……ザクロ様が、『あっしは、ある女神様を親に持つ神獣でさぁ』って言ってましたわ……』
『え、じゃぁ……まさか……』
「ザクロを生んだの……私……」
サザンカの言葉に、興奮していたオミの顔がスンっと無になった。
『……一気に興冷めた……』
「なんで?! 私が親ならなんかマズいの?!」
『いや……マズくはねぇが……お、飯きた!』
「ちょっと、オミ! 話しそらさないで!」
オミとサザンカの掛け合いに苦笑いを浮かべながらも見守る面々。
注文した料理が来たことで、それぞれの料理を前に頬張り始めた。
「美味しい~。
それにしても……皆のご飯、見事にお肉ばっかり……」
『基本は狼ですから……致し方ありません』
『あげは様はバランスよくお野菜もあって、とても健康的です!』
「あ~……神界でもお野菜を育てていたんだけど、ほとんど食べずに下界に来たから……」
『神界に……野菜?』
「うん!
いろいろ造ってたの!」
『神々でも、人みたいな事をしていたのですね』
「飲み食いしてないものは創造しても味がなかったから……」
『そうでしたか……』
「それにしても……下界は本当に発展しているよね。
お料理もそうだし、魔法とかスキルの研究も進んでいるんでしょ?」
『はい、すべて、賢者様の力です』
「賢者様?
そういえば、さっき会った亜人の子も賢者様って言ってたし、なんか……あちらこちらで賢者様って名前が出るような……」
『この世界のほとんどが、賢者様の知恵で出来てると言っても過言ではないですよ』
『……その賢者様のスキルを付与したのは、あげは様なんだよね……』
「えへへ~、まぁね!」
『ったく……女神なのに、女神らしくなかったり……ほんとこの世界、捨てたもんじゃなかったな』
サザンカの得意気な様子に、皆は微笑みを浮かべながら、目の前の食事を済ましていったのだった。
サザンカもまた、笑みを浮かべながら食事を済ませたのだった。
食事を終えた一行は、泊まれる宿を探すため、再度街中を歩いていた。
「待遇が良くて、お値段もお手頃な宿はないかな~」
『ふふっ……あげは様、お腹がいっぱいになられて、すごくご満悦な様子ですね』
『……宿……キレイなところなら、どこでもいいかな……』
『ヒスイはキレイ好きですからね』
『あの宿とかいいんじゃね?
ギルドから近いし、街のほぼ中央だし』
オミの指さす方に視線を向けると、宿の印が下がっており、キレイな佇まいの建物が見えた。
サザンカがすれ違う人に目の前の宿の情報を聞くと、評判がいいとの事で、一同賛成の意でその宿に行く事になった。
『ごめんください』
『は~い、いらっしゃいませ』
「五人で泊まりたいんですが、部屋は空いてますか?」
『お部屋は~……う~ん……ごめんなさい……。
少し広めのツインダブルのお部屋しか空いてないわ……』
「そうですか……。
どうしよう……他の宿探す?」
宿の受付嬢の言葉にサザンカは皆に視線を送り、返事を求めた。
皆は顔を見合わせ、またサザンカに視線を戻した。
『俺たちはどこでもいいぜ。
最悪、人型を解除すればいいしな』
『わたくし達の事は気になさらないでください。
見たところ、ここ以外にキレイなお宿は見当たらなかったですし』
『……僕、ここがいい……。
他の所は匂い的にダメだけど、ここは大丈夫……』
「わかった! 皆がいいなら!
あの、ツインダブルでもいいので、お泊りしたいです!」
『かしこまりました。
では、ツインダブルのお部屋にご案内します。
あ、お代は、素泊まり一泊、銀貨2枚のところ、銀貨1枚に割引させていただきます!』
「割引?! ありがとうございます!
お世話になります!」
割引という言葉に目を輝かせるサザンカに、オミ達は呆れながらも笑顔を浮かべ、宿の受付嬢とサザンカの後を付いていったのだった。




