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 グレーの狼達を蹴散らし終えたサザンカは、傷ついた狼達を一人で滝の近くの桜の木まで運んでいた。


 狼達の傷は深く、サザンカが自身の着ている衣服をちぎった布で、どうにか止血を試みているが、治まる気配がいっこうにない。


「……血……止まらない……。

紅い毛色の子……息が小さい……。

翡翠色の子も……黒い色の子も……ケガが酷すぎて……もう……」


『……おい……。

お前……もぅ……やめろよ……。

自分の事くらい……わかってんだよ……』


「ダメ!!

しゃべらないで!!」


『……お人好しで……バカだな……。

戦える力……ないのに……俺ら、庇いやがって……。


こんな……人型も……いたんだな……。

大抵は……気味悪い……って暴力ばかりだったが……』


「え……じゃぁ……あの狼さん達にやられただけじゃないんだ……」


『まぁ……な……。

お前みたいな、やつがいる世界なら……まだ……捨てたもんじゃねぇな……』


「狼さん、これ以上はっ!


……うそ……そんな……。

ダメだよ……こんなところで……。

この世界、捨てたもんじゃないんでしょ?!


あの狼さん達を見返そうよ!!

自由に楽しく生きて、自分達を誇って、あの狼さん達の言葉を笑い飛ばそうよ!!


楽しい世界を造るはずだったの!!

貴方達を……こんな目に合わせる為に、世界を造ったんじゃない!!


……こんな事になってほしくて……スキルを付与したんじゃないの……。


狼さん!!! お願いだから、目を覚ましてよ!!!

……皆……お願いだよ……目をっ……っ……」


 サザンカの治療も空しく、四匹の狼は息を引き取った。

その表情はどこか安らかな表情を浮かべている。


 サザンカは非力な自分を悔やむと同時に、下界のこれまでの出来事が頭を駆け巡り、造りたかった世界とあまりにもかけ離れている現実に、抑えていた感情が溢れ出し、はち切れたように涙を流した。


 しばらくの間、サザンカの泣き声は森中に響いていた。


 幾分、そうしていただろうか。

 流れる涙がようやくおさまり、高ぶっていた感情も落ち着きを取り戻したサザンカは、木の枝や石、自分の手を使って狼達を桜の木の下に埋めた。


 「……狼さん達……最後……守ってくれてありがとう……。

また……どこかで逢えたら……」


 サザンカはそう言い残し、その場に背を向け、行く当てもなくまた歩いたのだった。

 その姿は手をはじめとして体中傷だらけで、女神らしさの欠片もなかった。



 どれくらい森の中を歩いていたのだろうか。

サザンカの体力は限界を迎え、次第に足に力が入らなくなり、意識も衰え始めた。


「……も……ダメ……」


 サザンカはとうとう力尽き、膝から落ちて、その場に倒れ込んだ。



***


「……ん……んん?」


「お気づきですか……サザンカ様」


 サザンカが目を覚ますと、見慣れない天井に、見慣れない場所、そして見慣れない高齢の女性がいた。


 高齢の女性はサザンカが横になっているベッドの横に設置されている椅子に腰かけていた。


「あの……あなたが私を?」


「はい。

薬草を採りに森に入っていた時にあなた様をお見掛けしました。」


「……助けてくれてありがとう。


でも……サザンカ……って、どうして私の名前を?」


「サザンカ様は女神様だからでしょうか……。

あの時からお姿が変わっていません。

ですが、私は……歳をとりました。


あの時、母を助けてくださり……私に力を授けてくださり、ありがとうございます。」


「あの時……って……もしかして、ノーラちゃん?!」


「はい。

お久しぶりです、サザンカ様」


 サザンカを助けた高齢の女性、それは以前、サザンカが下界へ落ちた時に寄った村の少女、ノーラだった。


 サザンカとノーラは、これまでに下界で起こった事を細かく話しあった。


「……やっぱり……急に魔物が現れたり、穏やかだった人達の感情が変化して、こんな世界に……」


「はい……。

ただ、魔物対策として、魔法やスキルを駆使して冒険者として活動している方達がいて、冒険者ギルドと言うものがあります。


皆が皆、サザンカ様から頂いた力を悪に使ってなどいません。

むしろ、感謝している方もいます。


ただ、最近は国同士、種族同士の戦いがあるのは事実……。


でも、それは先程のサザンカ様のお話しに出た、「サザンカ様のせいで」なんて事、絶対にありえません。


ただの言いがかりです。

ですから……気を落とさないでください……」


「……ありがとう……ノーラちゃん……」


「ここは……もう村ではなく、少し大きな街として発展しましたが、サザンカ様への信仰は変わりません。


ここなら安全ですので、ゆっくり休んでください」


「……。


ううん……。

提案は嬉しいけど……私がここに居続けるのは……よくない気がする……。


私……旅をしながら、魔物が現れた理由と、人々の感情の変化の理由を調べる」


「……強い瞳……わかりました……。

でも、サザンカ様……お話を聞く限り、そのお姿やお名前では危険な気もします」


「うん……。

こんな時、スキルとか魔法があればなぁ……」


「……サザンカ様……サザンカ様は今はスキルや魔法はないですが、力……エネルギーはあります……それらはどうにか使えないでしょうか……」


「え……あ……そういえば……私、森でなんか光を放ったかも……」


「サザンカ様の治療をしていた時に感じたのですが……。

以前、サザンカ様から頂いたエネルギーと同じものを感じます。


おそらく、その光……エネルギーそのものなのでは?」


「エネルギー……そのもの……。

あ、だからあの狼さん達、光を浴びても無事だったんだ。


なら……またスキル付与出来るかも……」


「少し……希望が見えましたでしょうか……」


「うん……。

私、ここから頑張る。

最初にこの村に訪れてよかった……。

ありがとう、ノーラちゃん」


「いいえ、私達の方こそ、サザンカ様に助けて頂いたので、これくらいは……」


「うん……。

あ、一つお願い……。


私の像……壊したい……」


「え……神殿のサザンカ様の像を……ですか?」


「うん。

ちょっと行きたい所があって、その後にまたここに戻ったら、壊したいんだけど……」


「……。

わかりました。

神のお心のままに……」


「ありがとう……。

ちょっと……行ってくる」


 サザンカはやるべき事も見つかり、幾分か落ちていた気持ちも戻った所で、とある場所に向かった。

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