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無力

 狼たちの一触即発の空気に飛び込んだサザンカは、傷だらけの狼たちを庇うように両手を広げ立ちふさがった。


『なんだ、貴様は……。

人……いや、人ならぬ者のようだが、我々のような力を感じぬ……。

そこをどけ……。


貴様も……後ろの奴らみたいになりたくないのなら』


「……どかない。


何で争っているかわからないけど……もう、十分傷ついている狼さん達をこれ以上傷つけさせない」


『おい、女!! 何をやっているんだ!! お前には関係ない事だろ!!

そこをどけよ!! 誰の手を借りなくても俺たちは大丈夫なんだ!!


お前が何を企んでいるのか知らないが、お前の力なんかいらねぇんだよ!!』


「どかない!!

たしかに……私には関係のない事かもしれない……。


でも、傷を……弱っているのを見たら……この多勢に無勢を見たら……放っておけない!!!」


 サザンカを戦いから排除しようとする両方の狼二匹。

 相手の方はグレーの毛色の狼達。

 その中のひときわ大きい体をしている狼が威嚇をしながらも、静かに話し出した。

 

 一方、こちらは銀色の大きい体をした狼が荒い口調ながらもサザンカを牽制する。


 双方の言葉に耳を貸す気配がないサザンカは、足元に落ちていた枝を拾い上げ、グレーの狼達に立ち向かう姿勢を見せた。

 だが、その姿は恐怖で体全身を震わせていた。


『……何者か知らぬが教えてやろう……。

貴様が、後ろの奴らを守る資格は一切ないという事を。


人型の種族に近づき、取り入ろうとした奴らだ……』


「それの……何がいけないの……」


『我々と奴らは違う……。

我々は獣……。

それだけではなく、人の言葉を話す事が出来、スキルという能力を持ち合わせているのだ。


ほかの獣たちとは違う……いわば……崇高なる獣なのだ。

その誇り高き我らの種族が、人型に取り入ろうなどと……甚だしい』


『……何が崇高なる獣だよ。

その考えが嫌で俺たちは種族を離れたんだ……。

人の言葉を話せようがスキルを使えようが、別にエラかねぇんだよ。


人型に近づいたのはたまたまだ。

それなのに、反逆者として追いかけまわしやがって……』


『貴様らは我ら種族の顔に泥を塗ったのだ。

この恥知らずどもが!!!


貴様も後ろの奴らをこれ以上庇い立てするなら、容赦はせぬ』


「……話を聞いて、ますます放って置けない……。

私は絶対、この子達を見捨てない!!!!!」


『なら、貴様も同類……奴らとともに葬り去るまで!!!』


 相手の大きい狼の火ぶたを切る掛け声により、グレーの狼たちはサザンカ達に襲い掛かった。


 相手の動きとほぼ同じタイミングでこちらの狼達も動き、交戦し始めた。

 サザンカにも二匹の狼が付いたのだが、戦闘経験のないサザンカは持っている枝で牽制したり、攻撃を交わしたりするので精一杯だ。


 「(こ、これじゃ……全然ダメだ……。

このままじゃ……あ?!

あの紅い子に!!!ダメ!!!)」

 

 サザンカが敵の攻撃を交わしている最中、一番ひどいケガを負っている紅い色の狼に数匹の狼が飛び掛かった。

 それをみたサザンカは、自分に付いている狼にお構いなしにその数匹に向かって枝を振り回しながら走った。


「ダメ!!!これ以上は死んじゃう!!!

お願い、やめて!!!」


 サザンカの振り回した枝が一匹の狼に当たり、体制を崩した隙をついて、紅い色の狼に覆いかぶさるように庇うサザンカ。

 サザンカの相手をしていた敵と、紅い色の狼の相手をしていた敵の牙や爪、微力ながらも風魔法のスキル攻撃を代わる代わる受けるサザンカ。


 傷つきながらも仲間を庇い続けるサザンカを見て、銀色の狼が力を振り絞り、自身とサザンカの周りを一掃する勢いの風魔法を繰り出した。


『お前……戦う力ないのに、なんて無茶するんだよ。

バカだろ。


……お前はこのまま……そいつの側にいろ。


おい、お前ら……覚悟はいいな……。

俺らで、あいつらを蹴散らすぞ』


 銀色の狼の言葉に頷きながら、サザンカの前に立ちはだかる翡翠色の狼と黒色の狼……そして銀色の狼。

 息を切らし、深手を負いながらも三匹はサザンカの前に立ちはだかり、敵の攻撃に備えられるように体制を保つ。


「(……こんな時……力があれば……スキルや魔法があれば、手助けできるのに……。

女神なのに……なんて……無力なんだろう……)」


『クク……いい目だ……。

覚悟を決めている奴の目……。

よかろう……その覚悟に免じて我が一思いに打ちのめしてくれよう』


『上等だ、ウラァ!!!!!』


 双方が言葉を発し、敵であるグレーの狼は風魔法を最大火力で放った。

こちらも負けじと、三匹の狼が渾身の風魔法を放つ。


 だが、力の差は歴然。

こちらの魔法のすべてを打ち消され、相手の風魔法をまともに受けた三匹。

攻撃を受けると同時に、体が宙を舞い、サザンカの少し後方まで飛ばされてしまった。


 それを見たサザンカは、目の前の出来事に愕然とし、何から来るものなのか、涙が溢れ出してきた。


「こ……んなの……望んでない……。

楽しい世界を……創りたかっただけなのに……。


なのに……こんなの……」


『次は貴様だ』


 敵の言葉を受け、サザンカの中の何かがプツリと切れた。

目に涙を溜めながらも、視線を敵に向けたサザンカ。

その目には力が宿り、相手を真っ直ぐに捉えていた。


「これ以上……私の目の前で……私が造ったスキルで……傷を負った狼さん達に、手出しさせない!!!」


 その言葉と同時にサザンカの体が発光し、先程の力が放たれた。

その力は先程の光柱とは形は異なるが、サザンカを中心に半径数メートルほどの円形となって周囲に広がった。


 その力は殺傷能力はないが、敵の狼達をひるまし、畏怖させるのに十分な力だった。

 敵は得体のしれないものだと恐怖を成し、その場からそそくさと離れていった。

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