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サザンカの悲劇

 アマノミコトによってかろうじて下界で生きていけるように考慮されたうえでエネルギーもスキルも没収され、下界へと追放されたサザンカは、行く当てもないまま平原をさまよっていた。


 サザンカがしばらく何もない平原を歩いていると、遠くの方からいくつもの声が聞こえ始めた。


 神界に戻る何かのきっかけになればと、その声に向かって走り出したサザンカ。

 だが、目に飛び込んで来た光景は想像していたものとはかけ離れており、その場に立ち尽くす他なかった。


「……ここは……さっきの……平原?

戦いがあった……場所?

上から見ていた光景と……違いすぎる……」


 サザンカが下界へ送られた場所は、先の戦いがあった場所。

 死者はいないものの、重傷者多数、地は割れ、その場は人命救出で混乱に陥っていた。


「……この地割れは……マツリカお姉様が……」


 サザンカが成す術もなくその場で立ち尽くしていると、彼女の存在に気付いた一部の人々が顔を上げた。


「おい……あれ……」


「あの姿……間違いない……ヴィリオの村にあった、女神像の……」


「ということは……先ほどの戦いで敵が強くなったり、自分達が弱くなったのは、あいつのスキル付与のやり方がおかしかったからだ……」


「おい、あの女神を取っ捕まえろ!!

あいつのせいで戦いに決着がつかず、地震が起き、仲間が傷ついた!!」


「そうだ、そうだ!! 捕まえろ!!! 責任を取らせてやる!!!」


「「「おぉーー!!!」」」


 手の空いている一部の人々が敵味方関係なしに、サザンカをめがけて走ってきた。


「え、ちょ、ちょっと! なんですか?! いや、離して!!

痛っ……ちょ、やめてください!!」


 多勢に無勢であっけなく囚われたサザンカは、抵抗も空しく、大勢の人々の前で大男二人に両腕を掴まれ、膝をつかされた。


「おい、女神!!

お前のせいで仲間が負わなくてもいいケガを負ったんだ!!

責任取れ!!」


「そんな?! たしかに、さっきは戦いを止めたくて皆にスキルを付与したけど、そもそもスキル付与は、魔物対策とか他の目的なのに!」


「うるせぇ! お前がもっとマシなスキルを付与していればよかったんだ!!

中途半端に付与しやがって!!」


「中途半端ってなに?! 貴方達が女神像に向かって『スキルが欲しい』って言うから、仕事をしただけじゃない!!」


「うっるせぇ!! このダ女神!!!」


 サザンカに理不尽にも突っかかっていたパーソン族の者は、武器を持っている手を大きく振り上げた。


 それを見たサザンカは本能的に命の危機を察し、目を強く閉じながら「このまま終わりたくない」と強く願った。


 その刹那、サザンカの知らない体の奥底で何かがはじける音が聞こえ、彼女を中心に半径数メートルほどの光柱が生まれた。


 しばらくして光柱がおさまり、先ほどまで騒がしかった周囲が静まりかえった事を疑問に思ったサザンカは恐る恐る目を開けた。


 視界に入ったのは、サザンカを取り囲むように倒れている人々と、驚きと畏怖を浮かべた表情の人々だった。


「わ……た、し……何……したの……どうして……。」


 状況が悪くなる一方で、混乱する自身の頭をどうにか落ち着くように言い聞かせ、人々の身を案じたサザンカは周りに倒れている人の生存確認を行った。


 「……よかった……生きてる……。

でも……こんなの……私……ここに、いてはいけない……」


 安堵するのと同時に罪悪感に襲われたサザンカは、何もかもを振り切る勢いでその場から離れた。


 力を出し切ったサザンカは、再度行く当てもなく歩いており、平原の先の森に入って行った。


 しばらく森を歩いていると、前方に川が見えてきた。


「……のど……かわいたし、少し……疲れたから、ここでしばらく休もう……」


 川の水を飲みながら今後の事を考えていると、赤い液体がサザンカの視界に入ってきた。


「?!……こ、れ……血?


てことは、誰かケガしてるって事?!」


 水を飲むのをやめたサザンカは、勢いよく立ち上がり、血であろう液体が流れて来た川上に向かって走り出した。


「この赤いのを辿って行けば……あ、あれだっ……?!

(あれ……狼? ケガした小さい子が大きい子の口にくわえられている……。

それに、その大きい子もよく見たらケガしてるし……あっ……他に二匹の狼……。

行ってみよう……)」


 サザンカは見かけた狼たちに気付かれないように距離を取りながらそっと後を追いかけた。


「(あんなにケガをして……何があったんだろう……)」


 しばらく狼の後を追っていると、少し開けたところに出た。

 そこには大きな滝があり、滝の両側には桜の木が何本も咲いている。


「(こんな所に……桜の木……。

あ……あの子達、滝のほとりで身を清め始めた……。

血の色で毛色が見えなかったけど、銀色の大きい子と、ひどいケガの紅い子……それに、翡翠色の子に、黒色の子……。


それにしても……皆ひどい傷を負ってる……。

スキル(癒しの力)があれば……)」


 サザンカが離れた所から狼たちの様子を見ていると、彼女の背後から遠吠えが聞こえ始めた。

 それと同時に滝のほとりで休んでいた狼たちは早々に立ち上がり、身をかがめ、威嚇の姿勢を取る。


 サザンカが動けず、どうしようか考えた刹那、風を切る音と共に、数匹の動物がサザンカに目もくれず、真っ先に滝のほとりに向かって行った。


「(今のも……狼?

あの子達のもとへ行ったの?)」

 

 サザンカが狼たちに視線を戻すと、通り過ぎていった狼たちと、滝のほとりで休んでいた傷だらけの狼たちが威嚇し合っている。


 「(あの子達の傷……もしかして、今通り過ぎていった子達にやられたの?

十匹と四匹……分が悪すぎるよ……。

なんとかできないかな……なんか方法……。

何ができるかわかんないけど……行くっきゃない!!)」


 今まで事の成り行きを見守っていたサザンカは、一触即発の空気に向かって走りだした。

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