休みをください
下界に魔物が現れてから三日後の午前中。
サザンカは蓬泉殿の会議室に仕事の為にいた。
そこへ姉二人とアマノミコト、ザクロにフィリーのいつものメンバーが会議室に入ってきた。
皆は会議室に入るなり、目の前の光景に目を疑った。
「…え、ちょ、サザンカちゃん?!
どうしたの?!
大丈夫?!」
「んー…ベロニカ…お姉様?
おはようございます~…。」
「おはよう…じゃないわよ!
何この惨状!!
机の上にはファンタジー小説やマンガが山になるくらい積んであるし、それに何……この大量のビンの飲み物…。
睡眠…爆破?KAIBUTU?
いったいどこからこんな物調達するのよ…。」
「ヴィリオの村から供物としてもらったんです。」
「成分はカフェインやアルギニン…栄養補助飲料系もあるし…。
なんだか…神がする事ではないわね…。
ブラック企業並み…。」
「…現在の地球の労働でももう、ここまではひどくないわよ…。」
「…これが…社畜…というものか?
目の下のクマもすごい事になっておる…。」
下界に魔物が出現して以来、サザンカは自身の仕事をこなすべく、蓬泉殿の会議室にこもり、三日三晩ほぼ寝ずに下界の皆にスキル付与を施していたり、転生の泉にストックするスキルを創造していた。
「…お休み…ください…。
報酬はいらないので…お休みをください…。」
「「「………。」」」
『な、なにか甘いもの!
サザンカ様に甘いものをご用意します!』
『いや、それなら、温かい食べ物がいいでさぁ!
こういう、栄養補助飲料だけでは体がもたねぇですぜ!
温かいご飯とかお腹に入れてもらわにゃぁ。』
『そ、そうですね!
妖精達の力を合わせてご用意します!』
フィリーはそう言って、足早に会議室を出て行った。
会議室に入ってきた皆は、サザンカの状態を横目に各自の椅子に座った。
「それで…サザンカはどうしてこんな状態になったの?
会議室の扉には入るべからず…って札がかけてあったわ。
それに、この三日間、会議にも出なかったし…。」
「そうそう、集中していると思って私達は噴水広場で会議をしていたのよ。
なのに、娯楽に埋もれていたなんて…。」
「違いますよ~。
ベロニカお姉様があの黒いモヤモヤを消し去ったのに、数時間後には復活してまた魔物が現れたので、下界の人達が戦えるようにスキルを付与していたのですよ。
そのスキルの参考に、地球にあるファンタジー小説やマンガを読み漁っていました…。
あとは…スキル付与が出来るからって、ヴィリオの村にある私の像に人が並んでて…その対応にも追われていたのですよ…。
さすがに像のスキル…『伝心』を上書きして、お話が出来る…という事はやめました…。
向こうの声は聞こえますが、私の声は聞こえないようにしてます…。」
「…こういう事になるから女神とか、力を持っている事とか、あまり公にしてはならないのよ…。
それなのに、あなたは村の人にスキルを与えたでしょ…。
秘密にしたかったみたいだけど…。」
「う…なぜそれを…。」
「アマノ様情報よ。
あの日、私達が下界に落ちたのを見て、ザクロを派遣したのもアマノ様で、その後の村での事も見守っていたそうなの。」
机に突っ伏しながらも、視線だけはマツリカに向けるサザンカ。
そんなサザンカにマツリカは呆れた表情をしながら説明をする。
ベロニカは机の上のマンガをパラパラとめくり、アマノミコトは鏡で下界の様子を眺めていた。
「…して…スキル付与の成果はどうなのだ?
(あれからまた下界の日にちが進んでおるな…。
神界はまだ三日しか経っていないのだが…。)」
「とりあえず、世界の半分…くらいには付与しました。
でも、下界の人数が大幅に増え続けていて…。」
「そうねぇ…下界と神界の時の進みがだいぶズレ始めているわね。
神界では三日だけど…えっと…下界では数か月…ってところかしら。」
『…これじゃ、嬢ちゃんの体力ももたねぇですぜ…。
現に、エネルギーがすっからかんでやす…。
なのに、下界の魔物も人も増え続けている…。』
「それだけじゃないわ。
種族も…増えている…。
それに…なにかしら…あの魔物たちが現れてから…人々の様子がおかしい…。
穏やかな感情だけを組み込んだはずなのに、小さいけど…いざこざが起きたり…言い合いが起こったり…。」
「うむ…我が気になったのは、あの魔物たち…人のいない所で生まれたのに、人を目指して進行していたという事…。
何故…。」
『平和で何もなかった世界が、少しずつ不穏になり始めていやすね…。』
「人口が増えて村が大きくなり、小さいが国になっている所もある…。
サザンカの仕事…また増えるな…。」
「……下界の魂が神界に来て、また下界に戻る…その際のスキル付与は転生の池のおかげでどうにでもなりますが…。
もともと下界で生活している人達にスキル付与は…目が回ります…。
そうだ!
ヴィリオの村の私の像を写して…。」
サザンカがそう勢いよく立ち上がると、鏡の前に立って鏡に手をかざし、ヴィリオの村にあるサザンカの像を写した。
「像にスキル、『スキル自動生成・付与』を付与!
効果はスキル『化身』の相互作用で、私みたいにスキル付与が出来るものとします!
エネルギーは…一部の桜の木と繋いで…。
よし、これでエネルギー切れが起きずに、人々にスキル付与が出来る!
やっとお休みもらえる~。」
「…そんなんでいいのか…。
あんなに仕事をしたがっておったのに…もう放棄しておる…。
その像はもはやお主自身と言っても過言ではないな…。」
「いろいろ気になる事はあるけど…。
今はサザンカを休めましょう…。
その後に現在の謎を究明しましょう。」
皆の意見がまとまった所に会議室の扉が開かれ、フィリーが仲間の妖精達とたくさんの料理を運び込んできた。




