地球の神との約束
サザンカが像を通して、初めて青年にスキル付与をして数十分後。
あれから像の前に人が現れないため、サザンカ達はひたすら鏡を通して下界の様子を見ていた。
「この鏡…屋内の様子が見えないから、細かい生活部分は見えないのよね…。
どんなお料理を食べているのかしら…。」
「姉様…プライベートは大事ですわ。
衣服や建物の発展が見えるだけでもよしとしませんか。」
「お料理…あ!
そういえば、バターが手に入ったので、新しいお料理に挑戦できます!
ちょっと行ってきますね!!」
サザンカはそう勢いよく立ち上がると、駆け足で会議室を飛び出して行った。
サザンカが会議室を出て行った後、ベロニカが鏡に手をかざして地球の様子を映しだし、皆で雑談しながら眺めていた。
しばらくして、鏡の向こうから切羽詰まったような声が聞こえてきた。
『アマノミコト殿!
アマノミコト殿はおられるか!』
「む?
地球の神殿か?」
『おぉ、アマノミコト殿!
よかった!我の声が届いておるようだな!
至急、頼みがあるのだがよいか!
我の星のあちこちで、ものすごい勢いで戦が始まっているのだ。
それも一対一の国ではなく、各国で同盟を結んでの戦ゆえ、死者が多い。
それに加えて戦時下ゆえ、子の数が圧倒的に足りぬ…。
転生が厳しいのだ。
以前の約束を早急に叶えてはくれぬか。』
「各国で戦…。
あ…アマノ様、これの事ですわ、きっと。
先ほどまで見ていた国とは別の所で戦が起こっています。」
「うわぁ…結構大規模ね…。
これじゃぁ子育てとかままならないし、生まれても栄養失調とか、攻撃に巻き込まれてすぐに……。」
地球の神の話を聞き、鏡で戦が行われている場所を見た皆は、あまりの悲惨な光景に言葉を失った。
鏡の向こうから聞こえてきた、地球の神からの頼み事。
それはこの星、フリエイト星が生まれた頃の事だ。
地球を模範にこの星を造った事をきっかけに、地球で絶命した魂をフリエイト星に転生させると言う約束だ。
「約束は約束だ。
地球の神殿、さっそく受け入れの準備を行う。」
『おぉ、聞き届けてくれるのか。
早い対応で助かる。
アマノミコト殿が準備をしている間に、こちらも送る魂の準備に入る。』
両神の話がまとまり、アマノミコトはさっそく行動に移した。
鏡を地球の風景から、神界にある桜の木の場所に風景を変えて創造を施す。
桜の木を背景に魂の通り道になる大きな池を造り、その池を囲むようにひざ下までの透明な器も造った。
この器は、下界へ送る魂を一時的に保管する為のものだ。
「…よし、あとはこの池と下界を空間魔法と時間魔法で繋ぎ、魂の混雑をおこさないように施して…。
あとは魂を納める器と地球を繋いで…こちらも空間と時間魔法を施そう。」
「これで下界の魂と地球の魂を受け入れる事が出来て、潤滑に転生させることが出来るのね。」
「うむ…今は急を要するゆえ、こんなものだろう…。
あとでまた必要なものは造り足そう。
地球の神殿、待たせてすまぬ。
こちらは準備が整ったぞ。」
『おぉ…ではさっそく、そちらに魂を送る。
どうか、我が星の魂をよろしく頼む。』
「うむ…承知した。」
アマノミコトの言葉を聞いた地球の神は、自身の力を使い、準備していた魂を送り出す。
その魂は、順調にアマノミコトが造った池の周りの器に納まり始める。
『これが魂なのでやすね…光っていてキレイでさぁ…。』
『フリエイト星はまだ、魂が神界に来ていなかったのでこういうの初めてです…。』
皆は初めての魂の在り方に見入っており、しばらく沈黙になり事の成り行きを見守っていた。
そうして全部の魂が送られたのか、地球の神がお礼を言ったのを最後に声が途切れた。
「地球も大変ね…。
あんな大規模な戦…。」
「えぇ…悲惨でしたわ…。」
『自然界の弱肉強食とは違う争い…悲しい事でやす…。』
『……。』
その場が重い空気に包まれる中、会議室の扉が勢いよく開かれる。
「お待たせしました~!!
新しいお料理、クッキーが美味しそうに出来上がりましたよ~!!」
場の空気とは正反対に、元気な声を出しながらサザンカが料理を乗せたカートを押しながら会議室に入ってきた。
一連の事を知らないサザンカは、会議室に入るなり場の空気が先程とは違う事を察し、キョトンとした表情でテーブルに料理を並べ始めた。
「何かあったのですか?」
サザンカの質問にクッキーに手を伸ばしながらベロニカが説明を始めた。
その間、マツリカがお茶の準備に入るなど、サザンカを手伝う。
ベロニカから事情を聞いたサザンカは、少しだけ表情が曇ったが、すぐにいつもの明るい表情を取り戻した。
「私達が暗いままでいても、地球に出来る事はもうこれ以上ありませんし…あとは魂を見守る事しか…。
ここは、私のお仕事ですね!
地球からの魂にあらかじめスキル付与をしたりします!
腕がなります!!」
どこまでも陽気なサザンカの意気込みに皆はポカンと口をあけるが、それも束の間で、皆は次第に笑いが込み上げ、その場は笑顔に包まれた。
「まったく、サザンカは…人の気も知らないで…。
どうしてそう、時々鋭かったりするのに、考えが浅いのかしら…。」
「これがサザンカなのだから、仕方あるまい。」
『サザンカ様の辞書には、絶望と言う言葉がないように思えます。』
『嬢ちゃんは元気いっぱいがとりえで、天真爛漫…と言う言葉が似合いやす。』
「ほんと、さっきまで深く考えていた私達がバカらしく思えるわ。」
「??
だって…私達が出来る事は限られているので…。
戦は悲しい事ですが…俯いていても仕方ないと思ったのです。
この先は、出来ることをするだけ…と思って…何か間違っていましたか?」
「いいえ…間違いではないわ。
サザンカの口からそういう考えが出るのが、可笑しく感じる…と言う話よ。」
「意外性…と言う事だ。」
「そんな?!
皆さんの中の私の人物像っていったい…。」
「おバカで危なっかしい末っ子ちゃん。」
「おバカで猪突猛進で…おバカ。」
『『「……。」』』
「ベロニカお姉様に、マツリカお姉様ヒドイですよ!
とくに、マツリカお姉様は二回もおバカと言いました!
アマノ様やザクロ達も、同感と言うように無言で目も合わせてくれないし!」
転生の件で悲しく思う事もあったが、サザンカを見ていると皆は心の中で願わずにはいられなかった。
この平和な時をこれからも過ごせる事を。
この笑顔がいつまでも曇る事がない事を。




