サザンカの創造したもの(後編)
自身の創造した木を呆然と見ていると、天から呼び声とともに、アマノミコトや姉二人が雲に乗って降りてきた。
「もぅ!サザンカちゃんたら!
勝手に下界に降りるなんて!!
知識を持った人達に、私達の存在を認識されたら混乱を招くでしょ!!」
「知識があるからってすぐには認知されないかもしれないけど、中には勘の良い人がいるかもしれない。
偉大な力を持つ者…それは彼らにどんな影響を与えるか未知数なの。
その点、この孔雀は察しがいいみたい。
人が知識を得て、サザンカの存在を認識する前にここへ連れ出してくれたわ。
孔雀に感謝しなくてはね。」
「お礼を言うわ!孔雀!
ナイス判断よ!」
『へへっ…そんな、礼を言われると、照れやすぜ!
姐さん、兄さん!』
「…ん?誰が、兄さんですって?」
『?
あっしには男にしか見えないですぜ。』
「……私が…男にしか…見えないですって?
……この鳥…丸焼きにしてやりましょうか。」
ベロニカが孔雀の言葉に、額に青筋を浮かべ、震える片手を上げると、マツリカが止めに入った。
「待って、ベロニカ姉様。
人以外の動物は性別が二つしかないの…致し方ないわ。」
「……しょうがないわね。
だけどね、孔雀…私を呼ぶときは、ベロニカ姐さんと呼んでくれるかしら。
じゃないと…わかっているわね…。」
『わ、わかりやした、姐さん…。』
「よろしい。
んで?
サザンカちゃんは何を呆然と桜の木を見ているの?」
ベロニカはようやく孔雀との話に納得が言ったようで、本題に入ろうと、サザンカに駆け寄り、声を掛けた。
「ベロニカお姉様…私が造ったのは…桜の木のはずなのに…。
見た目は桜の木なのに…。
質感が、植物じゃないの…それに…本物の桜は、こんなに光っていません…。」
サザンカの覇気のない声にベロニカやマツリカは何と声を掛けてよいかわからず、困ったような表情を浮かべた。
そこへ、様子を見ていたアマノミコトが桜の木に近づき、手を添えて目を閉じ、桜の木に自身のエネルギーを流して調べた。
「………これは…エネルギーの塊…と言ったところだろう。
サザンカは桜の木を造った…だが、先ほどの水のように、マツリカの特権である大地に関連するものは創造できぬ…。
だが、創造の力が働き、星のエネルギーがサザンカの力に応えるかのように桜の木の姿を成した…と言う所だろう…。
光っているのも、いわば、エネルギーの集合体故の事であろう。
我らが力を発動する時、光が現れる…その原理と同じと言えよう。
今まで光っている理由は、創造した際の力の余韻だと思っていたのだが…。」
「だとしたら、エネルギーが本当はこの場所に集まっていただけなのに、なくなったと思ったのはおかしいわね…。」
『あの~…皆さん、この桜の木が木じゃないとさっきから言ってやすが、あっしにはちゃんと桜の木に見えますぜ。
嬢ちゃんは光っていると言ってやすが……光ってもなく、ただの大きな桜の木に見えやす。』
「え…孔雀、何を言っているの?」
「……認識の…違い?」
「どういう事?…マツリカちゃん。」
「サザンカが桜の木を創造した時、私達は一緒にいたわ。
そして、サザンカの口から、創造したのは桜の木と聞いた。
だから私達は桜の木と思い込んだ…本当はエネルギーが集まっただけの物体なのに。
そして孔雀はサザンカの創造は見ていない…。
この場所に来たのは、サザンカが『桜の木に向かって』…と言ったのでしょう…。
その時点で、私達と孔雀の中で少しの認識のズレがあるわ。」
「私達は、サザンカちゃんが力を使って桜の木を創造したのを見たし、本人の口から桜の木と聞いた。
孔雀は、桜の木を創造したのを見ていない…でも、桜の木と聞いた…。
だから、それぞれが見えているものが違う…と言う事ね。」
「…おそらく。
その証拠に、私が造った木の実から離れた所にサザンカは木の実を造ろうとした。
でも、離れた所から見ていた私達は、うねうねした物にしか見えなかったわ。
だから、サザンカの『木の実をお食べ』と言う言葉を聞いて、動物達用に造りたいんだなと察して、私が木の実を造り直したの。
動物の本能と生きるための知識を詰め込んだ木の実…。
孔雀も…最初はうねうねした物に見えていたはず…。
だから、『そんな曖昧なものでいいんですかい?』って、言ったのでしょう?」
『嬢ちゃん、すまねぇ…姐さんの言う通りでさぁ。
キラキラした嬢ちゃんを前に言い出せなかった…。』
「そ、そんな…じゃぁ、動物さん達が動かなかったのは、木の実に見えていなかったからで、孔雀さんが行くって言った時にはマツリカお姉様が造り変えた後だったからって事?
……やっぱり、姉様達の特権は造れないのですね…。
こればかりは、しょうがないですね。」
「ちょっと待って!!
桜の木を造った時に、エネルギーがなくなった感じがしたのは、まだ解決していないわ!」
「……仮説だけど、さっきのアマノ様の言葉で、エネルギーがサザンカの創造に応えようとした…だから、桜の木の形を成そうと一時的にエネルギーがなくなった。
けど、やっぱり、サザンカには大地に関するものは造れないという力…それこそ、理ね。
それが働いて、桜の木に成りきれなくても、形は保った…と言う所かしら…。」
「難しい話が続いたけれど…桜の木に見える者には見える…と言う事でいいかしら…。
下界の者達は問題なく桜の木に見えると思うし、少なくとも私達にも桜の木に見えるわけだし…。
光っているけど…。」
「光ってはいるが、それが相まってキレイに見える。
我もこれでいいと思う。」
『あっしは、もともとキレイで大きい桜の木ですぜ。
その周りの木たちもキレイでさぁ。』
「と、言う訳で、あまり思いつめちゃダメよ、サザンカちゃん。」
「?
大丈夫ですよ!
世の理ですから!
でも、ちょっとだけ残念です…。
大抵の事は出来るのに、自然の物が造れないと言うのは…ちょっとだけ寂しいです…。」
「…サザンカちゃん…。」
「…サザンカ…。」
サザンカは桜もどきの木を見上げ、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
そんなサザンカを見た姉二人は、サザンカを優しく抱きしめたのだった。




