背中に描かれた翼
背中に描かれた翼
風が心地良い。
人生に絶望した癖にこんな事は感じてる自分に内心驚いた。
もうすぐ、人生の終わりが迫っているのに心は妙に平坦だった。
握り締める鉄柵は今まで感じた事が無いほど暖かく、一瞬だが僕を迎えてくれている気がした。
学校の屋上の下を見下ろす。
あいつらが何時も溜まり場として使っていた体育館裏が見える。
皮肉なものだ。どんな時でも、あそこから逃げたいと思っていたのに最終的に死ぬのはそこになる何て。
なぜだろう自然と笑みが溢れる。
これは、自笑なのか何なのか僕には全くわからない。
いざ、鉄柵を乗り越えると急に視界が暗くなった。体が死ぬ事を拒否しているかのようだった。
それでも、僕の心は止められない。止められるはずがない。
痛いほどに心臓が早鐘を打つ。
今まで無駄に使ってきた勇気はもう要らない。
心に任せて歩み出すだけだ。
一歩、一歩。
フワッと身体が傾き、視界が回り始めた。浮遊感とこれで終わりにできる妙な安心感を抱いていた。
一瞬だけ閉じたつもりの瞼の裏には今までの無駄な記憶だけが蘇ってきた。
生まれた時から優秀な兄と姉に区別されて育ち、褒めてもらえることなんて無かった。
テストで90点を取ったなんて言えば、お兄ちゃんは100取ったんだからあんたももっと勉強しろ、と絵画コンクールで銀賞を取ったと言えばお姉ちゃんは大賞を取ったんだからお前もそのぐらい取ってこい、と。
家族とは、名ばかりの僕にとっては地獄に等しかった。
学校なんてもっての外だ。
あんな所に居場所なんて、ある訳が無かった。
最初だけは優等生凄いみたいな感じのイメージを持たれ、話しかけられた事もあった。でも、現実はそんなに甘く無かった。
学級委員を無理矢理やらされ、雑用から何まで全部押し付けられて、何か一つでも出来ていないものがあると担任に頭ごなしに怒鳴られあいつらには暴力を振るわれた。
それを快感に思ったのか、毎日の様にいや、毎日放課後の教室や体育館裏に呼び出されて暴力を振るわれた。
誰も頼れる奴なんて居ない、両親なんて見向きもしない。もう、疲れた。
親に認めてもらうためにやりたい事をそっちのけにする偽りの日々も、あいつらにただこき使われる為だけに行く学校も懲り懲りだった。
まともな想い出が無いと自虐的な笑みを溢す。
ふと、目を開くと雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。
これで、終わりだ。
最後の最期に願う事じゃ無いけど、認めて貰いたかった、褒めて欲しかった。
もう、叶わないんだな。
地面が近づいてくる。
これで、終わりだ。
今落ちているこの重力に身を任せるだけだ。
もしも、ここに神様が居て来世があるのなら
来世は僕にも兄姉の様な本物の翼を下さい。