女子応援団長の辟易
ニンニク踊り……
その歴史は大正十四年の八月に遡るらしい。
今の十戸である十戸村の村長が、地元の任侠の談合をしたときのこと。
理由は「学校を作り、優秀な人材を中央に送り込み村を発展させる」ためらしい。
村長は村で唯一の基督教徒であったため任侠から「素っ裸でロザリオを持って踊れば考えてやってもいい」と言われたとか。
そこで踊ったのが今の十戸高校に伝わって……
可憐で不憫な女子が心を痛めているのだ。。。
いろいろあって、オープンスクールは終わった……
私の青春に汚点を残して。
生臭くて淀んだ現実が一気に干からびて残ったものは、膨大なテスト範囲である。
クジラは馬と同様魚ではないのとか言う英文がある。
私が勉学に疎いのはこの英文と同様言うだけ野暮である。
それよりも、だ。
「うぁー……」
頭を抱える。
中間テストが返却されたのだ。
この一週間、テスト範囲はやっていたつもりなのだが……
脳内でデータが削除されていたのだ。つまり忘却ファイルにしまわれて、そのままゴミ箱に……
気にするのはよそう!と、開き直る。
うちの学校は中間テストが終わると学校祭をすることになっている。まあ私みたいな奴も楽しめるように予定を組んでいるのだろう。
とりあえずは授業のないことを楽しみに……
なんて考えていたら昼休み。
うむ、実に私はボーッと生きている。
ふと、スピーカーがハウリングする。
すると大音量で野太い声が教室に響く。
「応援団ーゴホッ、昼食を済ませたらぁーゴホッ(咳払い)んんっ、ンっ、職員室のぉー、石井のところまでぇー、来るようにぃ、ンンッ、ガバッ(これも咳払い)」
第一次ゴホッの音あたりから教室はいつものペースになっていた。
というのも、応援団の顧問の校内放送はいつもこんな感じで、みんな慣れているからだ。
さっさと昼食を済ませる。
(職員室にて)
顧問の石井先生がでんと椅子にかまえている。
彼はよくゴリラに形容されている。
いつだったか誕生日に女子生徒からバナナをもらって喜んでいたのを目撃したことがある。
その周りに応援団がいるのだが、
体格と構図から見れば、偉そうに座っている教師から説教くらっている可哀想な生徒たち、と見られなくもない。
石井先生が口を開く。放送こそゴホッゴホッをやるのだが、日常会話では渋イイ声で話す。ただしいちいち語尾を伸ばすのがどうも引っ掛かる。
「ご存知だと思うがぁー、学校祭の期間に入っているぅー。応援団のォー、ストームも準備しなくてはならなくなったーぁ」
ギクッ、と体が固まる。なぜならストームとは……
「今年のぉ、応援団長はぁ、女子だがあ」
こんなときに限ってゴリラにみえてしまう。目元はシルバーバックのそれだ。
「伝統に則ってやってほしいと思うぅー」
心のなかで「はぁ!?」と私が呆れ果てる。
おいおいストームって……
これもいけ好かない伝統とやらの一つである。
ストーム……
別名、激寒グワィズウィストーム。
男子しか参加できない私の高校の若さに乗じたかなりアレな学校行事だ。
んー……その内容とは、屋外(主にグラウンド)で、ほぼ裸の男子が東西陣営(どっかの半島みたいに南北に分かれてもいいね)に分かれて、水の掛け合いの攻防戦を展開するという内容のものだ。
くっそつまらない上に激寒な行事だと思われるかもしれないが、これは学校祭の中でも最も伝統(でたー、自称トップ校に見られる伝統という錦の御旗を振りかざして言論弾圧と個人の自由の制限に走るどこぞの中央政府のごとき傲慢)あるものの一つだそうだ。(一つ、ということはまだまだあるということだ)
ちなみに攻撃側は水バケツをもって、守備側を極寒地獄へと追いやる。
我慢しきれなくなったところで
①女子への謎告白が始まり、
②先生への揶揄、
③学校への文句を言うタイム、
挙げ句の果てには④政党批判(うちの学校の卒業生にはは意外と政治家が多いのだが、それだけ汚職事件で検挙される卒業生も多い)
⑤地元議員の黒い霧の暴露(これはいじめの手段になりうる、なぜなら議員の息子や娘が多いからだ)
⑥宗教勧誘(生徒が創始する宗教愛好会は学校最底辺の立場。モラトリアムに護られた陰キャ、陽キャ、陰陽キャ→都合のいい奴、が構成員で幹部は真面目に新興宗教の教祖志望)が始まる。
ストームのルールは簡単。
学校祭の後に男子のみ(自由参加)ふんどしあるいはパンツに着替えて参加する。参加条件は局部を露出していないこと。
出した、あるいは出させた時点で即失格となる。失格となった時点で外野みたいなところ送りとなり、ごつい体を寄せ暖をとる。中には発狂?してブツを振る個体もいるらしい。
毎年学校祭の直後は女子全員学校を追い出され(かなり足早に学校を去る)夜の公園でかくれんぼするか、打ち上げを勝手にやるか、あるいは予習復習に励むかする。
私も見たことなどない!!し、
んなの見たくもないイイイ!!!!!
なのに、「伝統に則って」だと!?
ふさげるな!このゴリラ!!と心のなかで盛大に叫ぶ。
学校祭は一週間後。
まあテストが悪くても……といきたいところだが、今年は楽しめそうにないのは目に見えている。