ルールを決めますが、トントン拍子で驚いてます
夕暮れの放課後。
それは、学生たちに、勇気と愛を届けるもの。
今日のこの時も、オレンジに染った空をバックに、1組の男女が道を歩んでいた。
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...さて、いつも通り下校すれば良い話なんだが...空気が重いなぁ...。
竜宮は俺のちょっと後ろにいるし(案内してるから仕方ないかもしれないが)、なによりこの歳まで家族以外の女子とまともに話したこと無いからどう話題を切り出せば良いか分かんねぇ...。
生徒指導室のことを思い出せばなんとか...いやいや、あの時は同居っていう話題があったから話せたけど、今はそんなこと話す訳にいかねえし...どうすりゃいいんだ...。
「遠藤さん。足が止まってますよ。早く案内してください。」
「え、あ、すまない。少し考え事をな...。」
「...そうですか。歩行中に考え事をするとは不注意もいい所ですね。」
「...それを言われたら反論できねえな...。」
とにかく、今は家に案内する事だけを考えよう。
それが一番平和だ。間違いない。
「あ、そうだ。忘れるところでした。遠藤さん、携帯番号を教えて頂けますか?」
「え、は?いや何で?」
「いえ...これから一緒に住むのに連絡先を知らないのは不都合かと思いまして。」
「いや、それだったら『LINN』で良くないか?」
「...ああ、そういえばそんなものもありましたね。」
『LINN』の名前を出した途端、凄い渋い顔をされた。余程嫌なのだろう。というか、今時やってない人を見つける方がレアだ。
「まあ、いいか。携帯番号ね...ほい、これ。」
「感謝します。後ほど、登録しておきますね。」
「それ登録しない決まり文句...まあ、今回はいいか。もうそろそろ着くぞ。」
「かなりくねくねと道を進んできましたが、本当に合ってるんですか?」
確かに蛇行したかのようにくねくねと曲がることを続けてきたが、本当にこの道なのである。
時間計算をすれば、大体15分くらいだろうか。一番の近道だ。
「これはあくまで近道だな。大通りから行けるルートもあるから、そっちもまた案内するよ。」
「なるほど...夜遅い時には、こちらの道は危なそうですね。街灯の数も少ないようですし。」
「そうだな。俺が一緒の時は、こっちでも良いかもしれんがな。」
「いえ、あなたが一緒の時の方が危ないので...。」
「おいそれどういう意味だ。」
3ヶ月はクラスメイトをしていたが、1度も話した事は無かったので、すっかり危険だと認識されている。まぁ、信用されてる方が困るけどな。
危機感のあるやつで良かった。
「あの、また足が止まってますが...。」
「ん?ああ、もう着いたよ。この左のマンションがそうさ。」
「え、こ、これですか...中々豪華ですね。」
「両親が、セキュリティ完備の所じゃないと一人暮らしは認めないって言うから...。」
実際の金を払ってるのは美沙紀姉なんだけどな。まあ、3人の子供を育ててたら金も回らなくなるか。
「ここの403号室な。後で合鍵渡しとく。」
「ありがとうございます。...しかし、防犯面もですが、すごいマンションですね...。」
「なるべく学校に近いところにしたんだ。そうした方が楽だからな。」
「なるほど...まあ、とにかくお部屋に行きましょう。色々決めておきたいこともありますので。」
「そうだな。」と、相槌を打って、自分の部屋へと歩き出した。
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「ただいま〜。」
「お邪魔します。」
そういって、鍵を使って開けた我が家の中は、相変わらず閑散としていて、物音1つしなかった。
俺自身があまり物を必要としないので、この無駄にでかい家は、本来あるべき姿を持ってはいなかった。
「あまり物などが無いのですね。てっきり散らかってるものかと。」
「まあ、散らかすようなものが無いからな。家事全般はできるし、掃除もこまめにやってるしな。」
「まあ、流石に一人暮らしをするだけはある...という事ですか。」
とりあえず、竜宮が言っていた通り色々と決めなきゃいかん事があるので、俺達ふたりはリビングにあるテーブル(これまた無駄にデカい)の椅子に向かい合わせる形で座った。
しかし、座ったはいいもののなんと切り出せば良いかわからずに悶々としていると、先に竜宮が沈黙を破ってきた。
「さて、ここで同居するにあたって、いろいろと決めなければいけません。」
「お、おう。そうだな。まずは何から決めるか。家事の担当決めか?」
「そうですね...先程、家事全般ができると仰ってたので、交代制にしましょう。掃除は...無駄に広いですし、1週間ごとで良いでしょう。買い出しは行ける方が行きましょう。日曜に1週間の献立を作れば、買うものも決まると思います。」
そこからはトントン拍子だった。意外にも話そうとしていた内容は一致していたらしく、特に詰まることのないままルールは決まった。
唯一気に食わない事があるとすれば...。
「風呂場とトイレだが、プレートを使って、使用中などを示せばどうだ?そうすれば事故を防げると思うのだが。」
「...その案自体は賛成なのですが...、貴方がわざと入ってくる可能性があります。そうですね...入った場合に目を潰す。これを血判状でお願いします。信用ならないので。」
「酷い言われようだな。しかも血判状って...いつの時代だよ。」
人がわざわざ提案したというのに、信じられないと言って血判状を要求しやがったんだ。ちょっとショックだったよ俺は...。しかも目を潰すってなんだよ。それの方がアウトだろ。
と、まあルールも決まったので俺らは解散して、今はお互い自室にいるという訳だ。しかしまぁ、やる事がないのだ。勉強?知らんな。
(ノック音)
「遠藤さん。時間も時間ですし、夕飯にしませんか?私はまだ調理器具などの位置が掴めてないので、できれば一緒にお願いしたいのですが。」
「ん...そうだな。やるか。支度するから先に行っててくれ。」
「分かりました。では失礼します。」
急に来たかと思えば、夕飯を作るから手伝えなどと、こちらの予定がないのを知ってるかのように言ってきやがった。いや、まあ家だしそりゃ無いけどな。
まあ、そんな訳で、同居生活の1日目の幕が、ようやく開いた。