美少女との生活が決まりましたが、この状況は喜べません
春、それは出会いと別れの季節。
数々の想いが交差し、そしてぶつかり合う。
その例に漏れず、中学の卒業式という別れを終えた1人の少年がいた。
そしてその少年は、高校の入学式という出会いへと足を踏み入れた。
そこから、約3ヶ月が経った。
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「恭大よぉ。いい加減お前も素直になれや。」
「絶対に嫌だ...。」
今この教室で何が起こっているかと言われれば、ある趣の脅しだ。
いや、脅しは脅しでも平和的な脅しではある。なんなら命の危機とかはない。
じゃあどういう状況かと言われれば...
「お前も意固地になんなって...今回の小テストではっきりしただろ。お前、成績ガチでやばいぞ。」
「でも...勉強は嫌だ...。」
そう、勉強だ。実は以前の数学の小テストで類まれなる才能を発揮した結果、2点という悲しい現実となった。
そのために、親友である剣城 紅蓮に勉強を強いられている。
「2点だぞ2点...どうやったら1問5点の小テストで2点なんか取れんだよ...。」
「俺の才能のおかげだぼっ!いってぇ!なにしやがる!」
「お前に反省の色がなかったからやった。反省はしない。」
紅蓮から貰った一撃はたんこぶができるかと思うくらい痛かった。
「だいたいお前は中学の時から...。」
その殴られた頭を擦りながら、紅蓮の嫌味を左から右へと聞き流していたその時だった。
「おーい、遠藤はいるか?」
「...ん?美沙希姉か。何か用?」
「学校では遠藤先生って呼べって言ったよな?...って、いるのは剣城だけか。ならいいんだが...。」
「相変わらずの綺麗さですね美沙希先生。」
教室に入ってきたのは、俺の実の姉であり、担任(担当は歴史)である遠藤 美沙希である。
その美貌から男子生徒に人気だが、本人は未だ年齢=彼氏無しである。
「ありがとう剣城...ところで遠藤。今なにか失礼なことを考えてなかったか?」
そして異様なほどの察知能力。これがあるからこの姉は侮れない。
「失礼だなぁ。俺が遠藤先生に対して失礼なこと考えるわけないじゃないですかぁ。」
「過去に何度もそういう経験があるから、こうして言っているんだがなぁ?」
「んで、何の用ですか。」
「ああ、そうだった。今すぐ生徒指導室に来れるか?ちょっと緊急だ。」
何かと思えば呼び出しだった。
ある意味、俺は呼び出しの常連なので大して驚くことはしない。
だが、緊急だと言われたのはこれが初めてなので、思い当たる節がないか記憶を探るが、流石にそこまでした記憶はない。
なんだろう、と俺が不思議そうな顔をしていると、
「ここじゃ言えない話だ。他の奴のプライベートも関わってるからな。」
「じゃあ俺はお邪魔だな。時間も時間だし先に帰るとするよ。」
「すまないな剣城。まあ、いずれ君にも話す事になるだろう。」
「駅前の喫茶店のフルーツポンチで手を打ちますよ。」
「ありがとう。」と一連の流れを見ていた訳だが、2人とも慣れてるというか...前にもこういうことがあったのだろうか。
「じゃあな恭大。くれぐれも勉強を疎かにするなよ。」
「余計なお世話だ。ったく...」
「んじゃ、行くぞ。」
「はーい。」
紅蓮が出ていったと同時に美沙希姉は動き始めた。
余程切羽詰っているのだろう。
途中で内容を聞けるかな。
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結局、内容を聞く暇もないまま生徒指導室へと到着した。
そして間髪入れずに、美沙希姉はドアを開けた。
「はーいお待たせ竜宮さん。遅くなってごめんね〜」
「...いえ、こちらのわがままを聞いてもらっているので、構いません。」
部屋の中にいたのは、どこか見覚えのある少女。
よく手入れされているであろう銀髪、少なくとも平均よりは下であろう身長、顔もちんまりとしてて童顔、なにより目を奪うのは身の丈に合わない双丘だった。
「...それで、こちらをジロジロと舐め回すように見てくるクラスメイトの遠藤君が、言ってた人ですか。」
「うん。舐め回してた件については後でしばいとくから安心してね〜」
竜宮。クラスメイト。銀髪。
あ、思い出した。クラスメイトでかなりの美少女で別名『冷酷な小惑星』の竜宮 杏華だ。
「...お前は何をボケっとしてるんだ。早く座れ。」
「えっ、あ、ああ。」
(緊急な案件がこの竜宮 杏華だとするならば、一体何を言われるのだろうか。
セクハラでもしたか?いや、そもそも俺とこいつに接点なんてものは無い。
そういえば最近視線をよく感じるが...いやいや、そんなまさかだよな。)
そんな考え事をしつつも、とりあえず近くの椅子に腰をかけて話を聞くことにした。
「今回遠藤を呼んだ理由だが、ちょっと複雑でな。1からの説明になるが良いか?」
「まぁ、そりゃ1から聞いた方が分かりやすくていいけど...。」
まあ流石に長かったから断片的に言うと...
竜宮の両親が先日他界。引き取ってくれる親戚がおらず、女子の家に居候したかったが知り合いは全滅。困ったので美沙希姉に相談したところ、俺に白羽の矢が立った...というわけらしい。
「確かに今俺は一人暮らしだし部屋も余ってるが...色々と問題があるんじゃないか?」
「...その点については考慮してる。家賃及び生活費は折半。お互いのプライベートは確保。家事分担は相談して決める。いかがわしい事をしてきたら問答無用でそれ相応の対応をする。」
「...まてまてまてまて。確かに聞こうと思ってた点は全部解消された。だが、竜宮、お前はいいのか?男の家で同居なんて...いかがわしい事云々の前に気持ちがだな...。」
「遠藤。竜宮はちゃんとそこに関しては承諾している。なんら問題はない。さらに言えば、お前の家賃諸々は私が払っている。つまり、お前に拒否権はない。」
なんという姉なのだろうか。こんな美少女と同居するのは一向に構わないが、人の退路を絶って話をするなど人の風上にも置けない。家族の顔が見てみたいな。あっ、俺も家族だわ。
「元々無理を言っているのは分かってる。でも、先生の管轄下だし、遠藤君のことは...まぁ、ゴキブリよりは信頼してるから。大丈夫。」
「俺への信頼度ゴキブリ並なんですか。ってか、逆にゴキブリへの信頼度ってどのくらいだ!?」
「ほら、本人の口からも聞けた事だし、後は家で色々決めてくれ。こう見えても私は忙しいんだ。ほら、行った行った。」
「えっ、あっ、ちょっと!」
俺の制止も聞かず、美沙希姉はスタスタと歩いていってしまった。
...さて、この状況どうするか。目の前には美少女、これから同じ家に帰る。そのかt「さてと、私も暇じゃないから帰るわ。家への道を教えてくれれば、あとは1人で行くから。」
「あっ、待て。家までの道は少し複雑だ。教えても分からない可能性が高い。一緒に行こう。それに、もう薄暗いからな。女の子1人で行かせられないよ。」
「...変態のくせに、気遣いはできるのね。」
「変態扱いはやめてもらえると...こほん。改めまして、遠藤 恭大です。よろしく竜宮。」
「...竜宮 杏華です。これからお世話になります。」
そうして、俺と竜宮の奇妙な関係が始まったのだった。