星明かり
「リゲルはどこまで行ったんだ」
星空に暗闇が生まれた。
同じ夜に動くものに聞いても、リゲルの行き先がわからない。
「アルテミスがいない時に限って」
兄は、お供にシリウスを連れて、歳の離れた弟を探しに出た。
夜にしか動けないので、暗い中シリウスの灯りが必要だった。
キーンと張り詰めた空気の街に降り立つ。
オレンジ色の街灯が、レンガの色に混ざり合う。
リゲルには溶け込めない街。
「次」
ひと晩中消えることのないネオンの色彩。
溶け込めるかもしれないが、街の方が受け付けないだろう。
「次」
人が途切れることのない店の蛍光灯が目立つ。
案外、溶け込めそうだけど音に耐えられないだろう。
「次」
静かだけれどジジジと不快な音のする電柱光がある。
明かりが弱い。
「次」
虫の鳴き声が聞こえてきそうな田んぼのあぜ道。
それこそ、明かりが弱い。
「次」
埋まるような深さの真っ白な雪だまり。
いるかもしれない。
シリウスが嬉しそうに跳ねまわる。
「ゆっくり行っておくれ」
やっと見つけた足跡。
お腹はすいていないか。寒くはないか。
心配になってきた。
リゲルの泣き顔が頭に浮かぶ。
駆け出したシリウスが青白いかたまりに飛びかかった。
リゲルが雪の中に隠れるようにして背を向けていたから。
「うわっ」
サラッと雪が舞う。
前方でウサギが走り出した。
じゃれているシリウスをはがし、リゲルの頭の雪をはらう。
「何してたんだ」
「もー。もう少しだったのに。ペテルギウス兄のせいで逃げちゃったじゃないか」
「何のんきなことを言っている」
「やっと見つけたのに」
ふてくされるリゲルをさとす。
「お前がいないと旅人たちが困るだろう」
「俺がいなくても、兄とシリウスがいれば問題ないだろ。て、シリウスが来てちゃダメじゃん。ん? 兄、なんでここにいるの?」
「お前を探しに来たんだよ! 帰るぞ」
暗闇に星明かりが戻った。
もう、冬の空の下でも迷わない。