04 Xでい
ピピピッ…ピピピッ…
重いまぶたをゆっくりと開ける
聴き慣れた目覚まし時計の大きな電子音だ
いつも通り大げさに時計を叩きながら上体を
起こした。いつも通り学校に向う。
今日の1時間目の授業は私の最も苦手な数学なのだ
重い足取りで教室に向かう、
2年B組私の教室だ
ドアを開ける
独特な腐卵臭の匂いが鼻を刺激する
いつも通りアヤカがいるのだが、今日は机の上ではなく、何故か床にうつ伏せになって手と足が縛られていた。アヤカだけでなく教室にいるみんなが手足を縛られた状態で床に転がっている。
「どうしたの!アヤ…」
急に強烈な眠気に襲われた。
そこで意識が途切れてしまった。
「いっ、ううーう」
上手く喋れない
頭がガンガンする
視界がしだいにはっきりする
アヤカが涙目になって私の方を見ている、口にロープがかまされているようだ
ドスッゴッ…ははっ…メキッ…ふははっ
さっきからおかしな音と笑い声が聞こえる
音のする方を見た
おおよそ学校に似つかわしくない大男がいた。
大男は小刻みに身体を震わせて、あきらかにまともな状態には見えなかった。
その大男が、生徒だろうか、生徒だったものの頭を殴ったり、壁に叩きつけながら笑っていた。目が慣れてくると、大男がサンドバッグにしている生徒だったものに私は見覚えがあった。チリチリの髪の毛、浅黒い肌、幼馴染の山田くんだった!
ここに来てやっと私は状況を理解した。
暴君の襲撃だ!
学校がテロリストに襲われる想像をしたことがあるだろうか。私はあった。
授業中に教室のドアから突然テロリストが侵入してきて、次々とクラスメイトを襲う。
その時の私は痛みや恐怖など感じることなく、超人的な力でテロリストを軽々やっつけてしまうのだが、いつのまにかふかふかのベッドの上で眠りに落ちているのだ。
しかし、現実に起きるなんて…身体が重い、手の震えが止まらない、目の前の屈強な男がとても恐ろしかった。
大男と目が合った
「ひぃっ」
自分でもわかるほど情けない声がでた。
男が大袈裟なくらいゆっくりと残忍な笑みを浮かべて近づいてくる。
「ううう」
私は必死に離れようと動き回った
ははっ…イモムシみてーだな…ふははっ
後ろから男の声が聞こえる
頭を掴まれた
さっき見た山田くんの虚ろな目を思い出してしまった。
下半身に生暖かい液体が伝わる
ふははっ…いいね
お前は最後に遊んでから駆除しよう…ははっ
腐れ感染者はみんなころすからな、
こっちの金髪のねーちゃんと遊ぼうかなぁ…ははっ
大男は刃渡りの長いサバイバルナイフで、アヤカの足元と手の拘束を解くと彼女に馬乗りになった。
ふはは
おいっこっちみろ、耳が悪いのか、おい
ペチペチとアヤカの頬を叩いている
こいつは生意気だ…ははっ
ゴンッと鈍い音がした
アヤカのうめき声が聞こえる
(やめて…)
ゴンッ
「ヴッ」
ふははっ…
カチャカチャと男がズボンを脱ぐ音が聞こえる
頭がボーとする
ついこの間も遊んでいた大切な友達が、
わけのわからない大男に殴られ、乱暴されそうになっている。
頭がボーとする
「また一緒に映画見に行こうね」
彼女の言葉が脳内でリフレインする。
いい匂いがした
なにかが私の中で壊れた
うつ伏せの状態から
匂いを頼りにイモムシみたいにゆっくりと這う
大男はアヤカの制服を破るのに夢中になっていた
口から唾液が垂れる…目の前に大男の足があった…いい匂いが鼻先まで近づく…食事の時間だ…肉に思いっきり噛み付いた。
血が肉汁みたいに口に溢れる。
大男が全身に力を込めて絶叫してる。
そして私の方に振り向いた。
大男は奇声をあげながら、腕を振り下ろす。
顔面に大男のゴツゴツとした拳が食い込んだ。
やばい、変な方向に顎が動いてしまった。
脳の処理が追いつかない、
しかし怒りや痛みよりも今はもっと原始的なものに
支配されていた。
もっとたべたい
大男の方をキッと睨んだ。
すると、大男が私を殴った時に拘束が解けたのか、大男に馬乗りされていたアヤカが起き上がっていた。大男の怯えた顔越しにアヤカと目が合う。殴られた跡が痛々しい
死人に不用意に近づいたことが男の敗因だ
アヤカが男の首元に噛み付いた。
その後大男はクラスメイトの餌になっていた
口をロープで縛られていたので、噛みきれず
グチャグチャになっていたが、男は生きていた
しばらくして到着した特殊機動隊によって場が収められた。
その日、小さく今日の出来事がニュースになっていた。