02 進藤アヤカ
お昼休み
「ねぇ、アヤノ」
私はものうげに呼ばれた方に顔を向ける。
そこには、身体にメリハリがあるグラマラスな女子生徒が机に座って、自分の金色の髪を指で弄っていた、進藤アヤカである。
彼女と私の共通点は名前が似ている事くらいなのだが、彼女は毎日私に絡んでくる。
たぶん私の事が好きなのだと思う。
「どうしたの?アヤカ」
「あいつ」
アヤカは細くて長い指で私の後ろの方を指差していた。指の先を追うと、フゴッ…フゴッ言いながら
鎖で机に繋がれたゾンビくんがこちらをガン見していた。
「あいつまたあたしらの事見てんの!ゾッとするわ!」
アヤカは身震いすると、スッと立ち上がりゾンビくんの正面に立つ。
「気持ち悪いんだよ!この出来損ない!」
と叫ぶと
パンッ!とゾンビくんに平手打ちを食らわせた。
ヴゥヴゥ
「何震えてんだよ!チワワかてめーは!」
パンっ返し手でもう一発
スッキリしたのかにこやかな笑顔で戻ってくる。
「ふーいい運動した」
「アヤカ、怪我しちゃうかもしれないしほどほどにね」
「あいつが悪い」
いつものやり取りである。
不死者は大きく3種類に分けられる
1つ目は、直接感染して一度死んで蘇った者、彼等はそのままゾンビとか蘇った者はたまた異世界転生者などと呼ばれている。
2つ目は、感染しているがまだ死んでいない者、保菌者だ、私の両親も保菌者となる。
3つ目は、私やアヤカのような保菌者の子供だ、私達は、第2世代と呼ばれている。
第2世代にはアヤカのように親がゾンビに襲われて亡くなったものや、ゾンビのレイプによって生まれた者など複雑な事情があって蘇った者を嫌っている者も多かった。だから、アヤカがゾンビくんを平手しようと蹴り飛ばそうと、法律違反だが誰も何も言わない。
「ほら、アヤノもやっちゃいなよ」
「やだよ、そんなの」
「いい子ぶっちゃって、ほら、あいつも」
アヤカが指差す方を見ると、複数のゾンビくんがこちらを見て、興奮したように息を荒げて机に繋がれた鎖をカチャカチャゆらしていた。
「ゾンビなんて、食欲と性欲しかないの、四六時中こんなんだから勘弁してほしいよね」
「でも、もう去勢されてるでしょ」
「付いてた時の名残じゃない」
アヤカは言い終わるとケタケタ笑い出した。
「ほら種無しがぁ!」
アヤカがゾンビくんの股間を蹴り上げる。
ゾンビくんが嫌がる反応を見てまた、ケタケタ笑っている。
始業のチャイムが鳴ると、教室のドアが開いて向井さやか先生が入ってきた。
ゾンビくんの股間を蹴り上げるのに夢中のアヤカに目もくれず先生は言った。
「えー授業します…座りなさい」
向井先生の数学の授業は例題を解いて、問題を出して、生徒に答えさせる形式だ。
「…えー…xに2を代入して、えー…式をとくと…
答えはどうなりますか、…えー…アヤノさん答えて」
銀縁のメガネをかけた担任の向井先生が私の方をじーと見ている。彼女の喋り方はいつも私の眠気を誘うのだ、眠くて何も話を聞いていなかった。
「あっはい!…」
私は助けを求めるように隣のアヤカの方を見つめる。
アヤカはトントンと自分の机を2本の指で叩いている。
ピース?いや違う2だ、答えは2
「答えは2です!」
「えー…違います…はー…」
人選を間違えたようだ
向井先生はやれやれといった感じで首を振る。
「えー…双葉くん…えー…答えられますか?」
先生が見つめる先には虚空を見つめるゾンビくんがいた
おそらく彼が双葉くんだろう
双葉くんはさっきからヨダレを垂らしながら
あーだの、うーだの言っているのだが
「あーあー」
「えー…そうですね…y=9で正解です…えー…次に進みます」
先生は一瞬私の方を見るとバカにしたように笑った。
私はこの先生が苦手なのだ、先生は何故か第2世代の私達を嫌っているような態度をする。
第2世代というか、私のことが特に嫌いなようだ。
先生のカッコつけたような服装も人を馬鹿にするような視線も、間の抜けた喋り方も全て嫌いだった。
授業を聞いているだけでイライラする。
そのせいかなのか私は高校に入って数学が嫌いになってしまった。
しかし、私がこうして学校に通えるのも恵まれているのだ、我慢して真面目に授業を受けていた。
我慢我慢…
…残りは来週にしましょう
「くぅー明日は休みだよアヤノ!どっか行こ!」
ハッと体を起こす
アヤカの甲高い声で私は目を覚ました、いつのまにか寝てしまったようだ。袖で目をこすりながらうなずいた。