01 ハイスクールゾンビ
重いまぶたをゆっくりと開ける。
目覚まし時計の電子音が鳴っている。
大げさに時計を叩きながら上体を起こし、時間を確認した。
「6:30か」
私の名前は高田アヤノ
母は専業主婦、父は仕事でいつも家にいないような家庭環境で生まれ育った高校生だ。
身支度を終えると、いつも通り学校に向かった。
いかにも初夏らしく澄み渡る空が気持ちいい、しばらく歩くと、真新しい学校が見えてくる。
私が通う高校だ。
校舎は数年前に建て替えられたばかりなのだ。
校門を抜けるとクラスメイトの後ろ姿が見える。
「おはよう!」
「フガッ!」
鼻が詰まっているのか、間の抜けた返事に私は笑ってしまった。
彼は幼馴染の山田くん、チリチリの髪の毛と浅黒い肌が特徴だ。
ノロノロした足取りの山田くんを追い抜き教室に向かう。
2年B組と書かれたプレートがかかっているドアを開けると、なんとも言えない独特な匂いが鼻を刺激する。
生肉が腐っているような匂いだ。
チャイムが鳴ると、担任の向井さやかが教室に入ってきて、教壇の前に立った。
「えー皆さん席に着いてください、着きましたねでは、朝礼を始めますよ」
ほとんどみんな聞いていないのに、朝の会が始まった。
「えー今日の日直さんは双葉くんね」
「……」
「えー双葉くんは具合が悪いみたい、高田さん手伝ってあげてね」
先生がこちらを見ている。先生は私のことが嫌いなのだ、面倒ごとは全て私に振ってくる。
「はい……きりーつ、れい、ちゃくせーき」
「えー出席をとります。えー…」
こうして、私の学校生活がスタートする。
今は公民の授業中、
「現代史〜基本的不死者法令について」を学んでいる。学ぶというか自習だ。
公民の授業は、大体自習か問題集の答え合わせしかしない。
先生はもう授業をやる気はないのだ
「お前たちサボるなよ」と授業の始めに言った後、教壇に突っ伏して寝てしまった。
数十年前のことだ、「死んだはずの人が動き出す!」というニュースが世間を賑わせていたらしい。
マスコミは「不死者」や俗に言う「ゾンビ」「アンデッド」などという表現をよく使っていたようで。
初めはまさか映画や漫画でもあるまいしというのが
世の中の反応だったが、段々と不死者の情報が広まるにつれて、デマではないことが浸透しはじめた。
しかし、初期こそ爆発的感染で混乱があったものの徐々に鎮静化していった。
理由は簡単だ、不死者もといゾンビが鈍くバカなことによる。
むしろ、鎮静化してからが問題だった
不死者は人なのかという意見が出始めたのだ
日本においては神田正義という人物がこの問題について最も影響力を持っていた。
彼はのちの不死者愛護団体の初代会長になる人物である。
神田は不死者の権利を健康な人並みにすることを主張していた
「不死者に人権を!彼らは生きている!」
が彼の主張だった
私はあくびしながら、教科書をパラパラめくった。
神田の主張が受け入れられた1番の理由は、この感染症自体の致死率の低さだ。
感染力は極めて強いが、この感染症単体で死亡することはまずない。
なので、知らず知らずのうちに感染していることがある。
その保菌者が健康な人に接触してまた感染という風に、
もはや誰が感染しているのかわからなくなったのだ。
この状況で、対策委員会の総指揮を任されたのが、神田正義である。
その後の神田はやりたい放題であった。
そして今学んでいる基本的不死者法令が国会で可決されてしまったのだ。
この基本的不死者法令は不死者に最低限の生活を保障することや、勤労の義務、納税の義務、義務教育を受ける権利などを盛り込んでいた。もうめちゃくちゃである。
簡単にゾンビを殺せなくなったのだ。
もちろん、感染者は他の健康な人と見分けがつくように、識別用の首輪をつけることや既に死んでゾンビになってしまったものは感染防止の為にハーネスと手枷を装着することが義務づけられていたりする。
チャイムが授業の終わりを告げる。
私は教科書をパタンと閉じた。
この高校はこの地域で唯一の感染者を受け入れている学校なのだ、
私は、もはやカラダの一部が腐っている同級生が半数な事に、なんの疑問も生じなくなってしまったが、
昔では考えられないことだったらしい。