顔あわせと男と男の約束
アストリア城はコの字型の執政棟とその後方に宮殿がある造りであり、執政棟の左翼に位置するのが召喚院であり、右翼に位置するのが魔法院である。
ミーアの研究室は左翼の一番はじの塔にあった。
「こちらが、私の研究室になります。」
何度見ても見慣れないであろう、美しい横顔に声をかけると、ふわりと花のような笑顔が返ってきた。
「塔に研究室があるのは、優秀である者の証と聞いた。君はとても優秀なんだな。」
「い、いえっ!運が良かっただけで…」
「謙遜は時に嫌味にもなり得る。胸を張っておけばいい。」
「そう言うわけではないんですが…」
微妙な笑みを返しながらその話は終わりと言うように、ミーアが研究室の扉を開けると、部屋のソファーにちょこんと黒猫が鎮座していた。
「ボルツ?貴方その格好どうしたの?」
「みーあぁぁ、ヘマやらかしちゃったよう。」
ボルツと呼ばれた黒猫が飛びついてくるのを受け止めながら、ミーアは盛大なため息をついたのだった。
ボルツを宥めつつ、サードに席を勧めながら、経緯を確認していたミーアは頭が痛くなるのを感じていた。
「つまり、口喧嘩の末に腹を立てたボルツがセレスタイン副団長を呪ってしまった、と。」
「だってコイツすっごくムカつく事言ったんだぜ!!」
二人の話はこうだった。
今回久しぶりに魔獣討伐隊を組む事になり、いつものように任務に出かけたが、今回は魔獣の量が多く一人二人と脱落していき、最終残ったのは二人だけ。
度重なる魔獣討伐でお互い疲れていたところに、ボルツがいつものように相棒ミーア
自慢をするものだから、サードがイライラして婦女子に聞かせられないような暴言を吐き、それに怒ったボルツが、「じゃあお前が女になって体験してみろ」と、絶世の美女になる魔法をかけ、そこで魔力が枯渇したらしい。
どの様な暴言だったのか確認しても、お互いに教えてはくれなかった。
「もっと、エグい魔法をかけたかったのに魔力がなくてさあ。」
ミーアはしょぼんとしながら喋る腕の中の黒猫を撫でながら、こんな事の為に自分は職を失いそうなのかとずしりと気持ちが重くなるのを感じていた。
「…セレスタイン副団長。わかってらっしゃるとは思いますが、契約魔族に契約者への悪口は厳禁ですよ。」
「ああ、わかっているとも。私がコレで済んだのは幸運であったと理解している。」
「その件は私も同意です。ボルツは、すぐに怒りすぎ。私の立場も思い出してくれないと。」
「うー。それはごめんなさい。」
へにょんとした耳がとてもかわいいなと思いながら、ボルツの魔力量を測るとかろうじてこちらの世界で実体を保てるぐらいの量しか残っていないという結果であり、ミーアの気持ちはずんずん落ちていってしまう。
「アーカンサス副長官、コレは解呪できそうか?」
「ボルツの魔力がもう少しあれば解呪可能ですが、ここまで少ないとあと2ヶ月では回復しないでしょう。」
「む…。そうか。」
「…セレスタイン副団長、貴方様には恋人とか愛する方はいらっしゃいますか?」
そう言って悩みこむ美女を見ながら、もっとも確実で早く万能な解呪方法を思い浮かべて聞くと、とたんに彼女の顔がくもった。
「…そんな相手はいない。何故そんな事を聞く」
「すみません。古の昔より、確実な解呪は愛するもののキスと決まっておりまして。」
「あんな御伽噺を間に受けるのか?もしそうだとしても私はごめんだ。」
ミーアはどんどんと不機嫌になっていく相手に焦りつつ疑問が浮かぶ。
どうしてここまで拒否するのだろうか?
セレスタイン家といえば代々騎士団の重要幹部を務める由緒正しい貴族家であり、女性からの人気も高いのに。
「別の方法でなにかないのか?」
「別の方法ならば魔法薬があります。ただ、素材集めや調合に時間がかかりますが…」
「ならば、その魔法薬を作ってくれ。素材集めも我が家の力を使えば早いだろう」
「セレスタイン副長官がそれでよろしければ私に依存はございません。」
「ならば、殿下にそう伝えてくる。護衛としては明日からでいいな?」
「は、はい。」
「それと、明日からはサードと呼んでくれ。わたしも君をミーアと呼ぶが、大丈夫か?」
「え。だ、大丈夫です!」
「では、ミーア。明日朝また来る」
そう言い残して颯爽と立ち去る麗人に見惚れながら、ミーアは大きくため息をついた。
なんでこうなっちゃったのよー!!




