晴天の霹靂
アスタリア王国、花の都アストール。
大陸の中央に位置し、交易の中間点になるこの街は今日も賑やかだ。
北の小高い丘に位置する白亜の城は陽の光を受けて今日もきらめき、街を見下ろしている。
そんな城の中では、重厚な家具の置かれた部屋の独特な緊張感に包まれながら、ローブを纏った一人の少女が戦々恐々しながら目の前のこれでもかと言うぐらいに美形な青年の顔を伺っていた。
プラチナブロンドの髪をかきあげ、菫色の瞳を細めて笑うと彼は口を開いた。
「ミーア・アーカンサス、其方を呼んだのはある事について、解決して欲しいからだ」
「ある事とは…?」
「先日、ある人物がおもいがけない魔法にかかってしまった。その人物は我が国の重要な地位にいる者で、その魔法が解けなければ我が国はとても痛い損失を受ける。」
はて?とミーアと呼ばれた少女は疑問に思い、その疑問をそのまま目の前の上司に伝えた。
「おそれながらビオラン殿下、そういった案件は魔法院の管轄かと…」
ビオランと呼ばれたこの国の王太子は、またしてもニコリと笑う。
「そうだね。普通ならばそうなるが、今回は普通ではない。君の召喚魔族が関わっているからね。」
ミーアの体がびくりと震え、彼女の白髪がサラリと揺れる。
背中に変な汗が流れていくのを感じながら、恐る恐る口を開いた。
「ボルツが何か失礼な事をしましたか?」
彼女の召喚魔族は優秀だが、沸点が低いのが難点である。
「とても大変な事をしたんだよ。
君の相棒は我が副騎士団長に性転換の呪いをかけた。
君も知っての通り、二か月後の満月の日、宵月祭が行われる。
祭の最重要行事の剣舞に彼は出る予定だった。
それまでにこの呪いを解かなければ我が国は魔法解除すらままならない国と認識されてしまい、他国への牽制もできない。」
「性転換…?」
「そうだ。魔族の呪いは魔族本人と召喚士である君しか解けない。
この呪いが解けなければ、責任を取ってもらわなければならない。」
目の前の青年が放った言葉を、脳内で繰り返し理解した瞬間、ミーアの顔が真っ青になった。
「お待ちくださいっ!ボルツに言えばすぐに解けるはずですっ!」
「君の相棒は、無理と言っている。その理由も調べてくれ。」
なおも言葉を続けようとしてビオランの顔を見て彼女は悟った。目の前の青年は笑っているように見えるが目が笑っていない。
本気なのだ。理解した瞬間、ガタガタと体が震えだした。
「そんなに怯えないでくれ。なにも極刑にするとは言っていないだろう?解除できればいいのだから。」
「は、はい…」
薄い青の瞳にうっすらと涙を浮かべながら返事をするミーアに、彼女の上司でもあるビオラン王太子は言い放った。
「ミーア・アーカンサス。本日より二か月後の宵月祭までに呪いを解かなければ、其方を即刻解雇とする。」
コンコン
「殿下、副団長様が到着なされました。」
しばらく放心していたミーアは、扉のノック音と先ぶれの声にハッと意識を戻した。
「入れ。」
「失礼いたします。」
少しハスキーな女性の声が聞こえ、扉が開き姿を現したのは女性騎士であった、しかも絶世の美女。
肩より少し長い赤毛は首の後ろでシンプルにまとめられており、肌はうっすら琥珀色。
つり目ぎみだがパッチリとした瞳は榛色で、鼻筋はすっと高く、唇は瑞々しい果実のよう。
体は鎧の上からでもわかるスタイルのよさ。
まるで戦女神のようで、女性なのにうっとりと見惚れてしまう。
「サード・オニキス・セレスタイン参りました。」
「さすが、セレスタイン副団長だね。時間ぴったりだ。」
「騎士として当然です。…ところで殿下。そちらのお嬢さんは?」
「こちらが例の召喚院副長官ミーア・アーカンサスだよ。ミーア、彼がサード・オニキス・セレスタイン、我が国の副騎士団長殿だ。」
きっちりとした騎士の挨拶をする美女を見つめながらミーアは唖然としてしまった。
世間に疎いと言われるミーアでも、今の副団長は男性であると知っている。しかし目の前にいるのはどう見ても女性であった。
「サード・オニキス・セレスタインだ。こんな姿だがれっきとした男だ。」
「ミーア、ミーア・アーカンサスです。
この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません!」
(ビオラン殿下の言う通りだわ。私の相棒は何てことをしてしまったのだろう!)
精一杯の謝罪が伝わるように頭を下げるミーアの姿にサードは苦笑を返しながら、元はと言えば魔族を怒らした自分が悪いのだからと、頭を上げるように促した。
理不尽な事に巻き込まれながらも他人を気遣えるその姿にミーアが感動していると、ビオランがこれからについて説明を始めた。
「ミーアには、セレスタイン副団長の呪いを解いてもらう。セレスタイン副団長は彼女の護衛としてしばらく側につくこと。
期限は宵月祭までだ。ボルツは君の研究室に戻しておいたから後の事は3人で決めてくれ。」
「かしこまりました。」
「方向性や解呪方法がわかれば、私に報告すること。」
「出来るだけ早く報告できるよう、最善を尽くさせていただきます。」
「では、私は次の予定がある。成果を期待しているよ。」
ニコリと笑みを浮かべるビオランを残して、二人はミーアの研究室へと急いだ。




