絶対少女世界線
私は多分、楽な生き方をしている。クラスの中心グループに入り、成績はまぁまぁ、『クラスに必要な人物』とまではいかないが『いないとなんか違和感…』みたいな地位にいるし、両親も元気で家自体も別段貧乏というわけではない。友達と話しながら帰り、友達と離れると少し寂しくなったりする平凡な日々、幸せな暮らし。楽な生き方だ。こんな生き方をしている私に、多分アニメのキャラクターはこう言うだろう。『それでいいのか。変わらなくていいのか。進まなくていいのか。』うるせぇ、停滞の何が悪い。いいじゃないか、楽で。
「いやダメだろ。」
「え?」
「楽だったらなんでお前自殺しようとしてんだよ。」
「あー、それは確かにそうですね。まぁあれですよ。限界だったって事ですよ。みんなに合わせるのが、俗に言うストレスの限界っていうやつですね。」
「はーん、まぁいいや、好きにすればいい。あんたはここじゃ死なない。いや死ねない。試しに飛び降りてみるといい。なんらかの邪魔が入って絶対に死なないから、なんだったら軽傷で済むくらいだ。」
「いやいやご冗談を、ここ5階ですよ?流石に死ぬでしょ。…え?死なないんですか?」
「試してみるといい。ただし俺がお前を押すとか無しな。それだとあんた死ぬから。」
「えぇ、私が死ぬの止めたいんならもうちょっとこう、考えませんか?」
「別に死んだら死んだで一向に構わないよ。そうすれば未来の俺は気持ちよく死ねるからな。あんたがいない方が助かる。」
などだ先ほどから意味のわからない事を言うこの男は、初対面の癖になんだか馴れ馴れしく、おしゃれだかなんだか知らないが耳栓を付けていた。(よく聞こえるな。)
「そういえば私が自殺を止めるとでも?残念。私はもう、決めてるんですよ!」
少女は勢いよく飛んだ、このまま道路に落ちれば死ねたのだが、運悪く下にはスタント用のマットが敷かれていた。
「なんでー!はぐっ!」
「な、死なないだろ?」
マットに埋まったままの少女を前に、青年は話した。
「ふご、ふごふごふごふご?(あなた、いったい誰なんですか?)」
「なんでかは知らん、だがあんたはここから十年後の未来でしか死ねない。自殺するんだったらな。だがそうすると今度は十五年前の俺が死ねない。だから俺は十年後のあの日にお前が死なないように、俺は未来から来たんだ。」
「未来?」
「あぁ、未来だ。」
「ばっかなぁ、」
「ここからあと二十年もすればタイムマシンは作られるぞ。」
「…マジで?」
「マジで。」
「やっぱ信じられないです。」
「だろうな。まぁいい。とりあえず俺は十年後のあの日のみあんたを死なせないためにここに来た。やっとあんたを見つけたんだ。絶対に生きてもらうぞ。」
「はあ(何言ってんだ?この人?)。」
「ま、そういう反応だよな。別にいいや、取り敢えずこれ、名刺。俺一応探偵やってるんだ。そこに住所書いてあるから、何か相談したいことが有れば言いな。うちは1回目の依頼は半額なんだ。」
彼の白髪は恐らく地毛なのだろう。しかもストレス性の奴、緑色のファー付きハードボア越しでもわかる痩せ細った体、いったいどれほどのストレスを抱えればこうなるのだろうか。私は名刺を渡して去る彼の背中を眺めていた。
家の(と言っても一軒家ではなくマンションだけど。)鍵を開け、ドアノブに手をかけたその時だった。
「ガチャ…」
隣の部屋に見覚えのない人が入っていった。若い男性。確かあの部屋には老夫婦が住んでいたはず。確か孫とかもいない。昔はよく遊びにいってたっけ。知り合いかな、まぁいいや。私には関係ないことだ。
「お母さーんただいまー。」
「おかえりーって、ちょっなんでそんなに汚れてるの⁉︎洗ってきなさい!」
身体中埃まみれだった。
翌日
「よぉー矢車 真帆ぉ、昨日の今日でどうした、ここはガキが来るところじゃないぞー。」
「いえ、帰るときにあなたを見つけて、何となく気になったのでつい。」
「それでお前来るか?普通。ここさ、歌舞伎町だよ?ねぇ、しかも夕方だし、俺がロリコン認定されて逮捕されちゃうだろうが。」
「私ってロリですか?」
「児童ポルノに引っかかる奴はみんなロリかショタなんだよ。」
「そんな無茶苦茶なぁ、まぁ言ってることは分かりますけど。でもこんなところで何してるんですか?えぇっと…」
名刺を見る、なんで読むんだこの名前。カイドウ?マワミチ?え?
「廻道 彼方。読めなかったろ、俺の名前。よく言われるんだよ。廻道さんでいいぞ。」
「えぇ?まぁいいですけどで、廻道さんは何してるんですか?こんなところで?」
「なんでそう嫌そうなんだよ。まぁ不倫調査って感じだ。」
「本当にそういうことするんですね。」
「まぁこれ以外にやること無いからなぁ。」
「へぇー。でも良いんですか?こんなに堂々と道の真ん中歩いてて。」
「良いんだよ。そもそもあいつらはここじゃ無い。」
「ここじゃ無いって、どこですか?」
「あと三分もすればわかる。」
「あぁ、映画館ですか。」
「よく分かったな。」
「私を返さないでこの辺りにある建物ってそれくらいですからね。」
「それもそうか、、。」
「でもやっぱり良いんですか?」
「ん?」
「私のせいでバレても知りませんよ。」
「写真撮るだけだし、まぁなんとかなるべさ。」
映画館の前に着くと、廻道はスマホで時間を確認し、そして目を閉じ、耳栓を抜いた。何やってんだ?この自称未来人?
「あのー
「静かに。聞こえない。」
ここまで周りがうるさいと聞き取るのも難しいな。でも聞き取れないわけじゃない。もっと集中して。神経を最大まで研ぎ澄まして。声の方向へ。
「…見つけた。行こう。」
「は?」
「『は』じゃねえガキ。」
しばらく歩くと、一つの建物の前に着いた。
「ここって…」
「まぁ、俗に言うラブホテルだな。嫌なら帰っていいぞ。」
「いや別に嫌じゃないですけど。」
「彼はここへ来る。今回のターゲットはここ近辺のホテルを一定のペースで回っている。そして俺は一週間にわたりその傾向を調べた。そしてさっき聞いた彼の心拍数、汗の量、そして見た映画から考え今日は例外で一番近場のここへ急遽やってくる。そろそろだ。」
3分後、日が落ち始めると同時に一組の中年の男性と若い女性といういかにもな不倫現場が引き寄せられるように歩いてきた。
「おい、こっち向け。」
「へ?」
カシャ
「おいコラ。何かってに撮ってんだ?あ?」
「いや、撮ったのはあっちな?一応これ盗撮の一つなんで。バレないようにしないといけないんだよ。」
「へえ。そうですか。まぁいいや、貴方が無職じゃなくて本物の探偵ってことが判っただけでまぁ今日は収穫ありました。まぁまだ怪しいですけど。」
「まぁ、それは俺があんたの立場なら同じこと思ってらだろうから信じろなんて言わないさ。」
表情なく虚な目で淡々と話す彼のやつれた顔は、影も相まって少し怖かった。(酷い隈、髪もボサボサだし、不健康さが目立つなーこの人。)
「では。」
「あぁ。」
自称未来人と別れた私は、そのあと大したハプニングもなく家の前に着いた。一つ気になったのは、というか今気になったこと。
「あれ?なんの音もしない。」
時刻はすでに6時半。いつもだったら母が夜ご飯を作っているはず、その音は換気扇を流れ、匂いと共に外に運ばれるはず。
ガチャ
嫌な予感がした。だが開けるしかなかった。私の家はここだけなのだから、帰りたくばここを開けなければならなかった。例えそこが血と狂気に溢れた殺人現場だったとしても。例えそこに、母の遺体があったとしても。
そんな少女が笑顔で明日を迎えられるのは、また別の世界線。
自分で書いてて夜想像したら眠れなくなった。いや、怖くない?