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第四話

門前。トラブルである。

「おい、お前! 見ない顔だな。どこの街の者だ」

「許可証を見せろ。ん? 無いだと? じゃあどうやって街を抜けたんだ!」

「貴様、職歴はなんだ。え? さらりーまん? なんだそれは!」

 門の前でうろうろしていたら門番のような格好の男二人に槍を突き付けられて囲まれてしまった。一人は毛むくじゃらの年配、もう一人はまだ若い。キサラギ君と同じくらいの年齢だろう。どっちも何故か怒ってる。まぁ、そりゃそうだろうな。変な人物(しかもスーツ姿)がいるんだから。


 情報漏洩がなされていないのは素晴らしいことだが、俺のちょっと奇妙な(ちょっとではないけれど)異世界転生の話は白から外へは出て行っていなかったみたいだ。まぁ、当たり前だよな。今さっき起こったことがもう既に街まで広がっているなんて都合のいいことは起こらない。待遇が良くなるわけでもない。当たり前だ。勇者キサラギ君ならともかく、俺は一般人。特殊なスキルなんかもあればいいんだけれど、今のところそんな実感もわかない。


「とにかく、街に入りたいんですけれど……」

「え? 駄目だ駄目だ! 許可証、身分証明書があれば考えてやらんこともないが……」


 許可証、身分証明書。この世界で生まれたことがない俺がそんなものを持っているはずがない。ここで洗いざらい話してしまおうか? いやいや待て。それは軽率だ。

 うまくここを言いくるめられれば〈異世界からやってきたけど完全な手違いだった一般人の男〉から〈身元不明のさすらいの旅人〉へジョブチェンジできるってことじゃないのか!? 圧倒的に後者のほうがいい。村の全員が俺を哀れな目で見てくるよりも奇異な目で見られたほうがなんだか、強そうな気がする。完全の俺の主観なんだが。

とりあえず俺は〈自分の記憶がなくなっていて今は町と町の間をさ迷っているさすらいの旅人〉になりきることにした。設定が増えてる? 俺の気分だ。

「あの、実は記憶が無くなって……」

 そう演技に入った俺の視界の端に小さな光の輪を二つがふよふよ浮かんでいるのを捉えた。……いや、二つじゃない。四つ、五つ、いやもっとだ。無数の光の輪が俺の出てきた城の方角から街に飛び込んでいくではないか!

 なんだか、嫌な予感がする。

 その光の輪が門番二人に吸い込まれていくと、ぱっと表情が変わった。険しい顔から驚いた顔、それから笑いをこらえたような顔になった。明らかに俺のほうを見ている。ああ、作戦が台無しだ。俺の情報が伝わったようだし、完全に馬鹿にされる……。目に浮かぶ、国王と王妃の憐みの目。俺はここでもみじめな暮らしを余儀なくされるのか……。

「お前! 災難だったなぁ」

 バシンと肩を叩かれた。

「俺だったら城出た瞬間に死んでるぜ! よくここまで来たなぁ!」

 ……あれ? 歓迎、されているのか? 肯定的だ。門番たちは槍を放り出して俺の肩を組んでがっちりホールド。


「なあ、俺の家にでも泊って行けよ。今日はゆっくり休んで、明日考えればいいさ」

「あ、ずるいぞ。俺の家にも来てくれよ。あんたの話を聞きたい!」


 これは……!

 なんてポジティブなんだ!


「ほ、本当っすか! いやあ、俺もね、いろいろ話したいんですわ」

 俺も調子に乗って両脇に抱えられるまま、街の中へ引きずられるままヘラヘラペラペラ話し始めた。

 この時、俺はもっと警戒すべきだった。どうして一気に歓迎ムードになったのか、もっと考えるべきだった。

 これから待ち受ける、ものすごい運命を――!


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