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第二話

 この国はグランバードという名前らしい。大陸にぽつんと浮かぶ島国だ。昔の日本みたいな封建制に似ている。地区別に領主が居て、政治を収めているみたいだった。で、ここが一番力を持っている、いわゆる首都みたいなところだ。名前はそのままグランバード。国の中で一番力のある地区がそのまま国名になるみたいだな。この王様が所謂この国の支配者らしい。いや、総理大臣に近いのだろうか? 


 国王の名前はバンダイル。隣に座っているのはお妃のブリューリアだ。どちらも気まずそうな顔をして俺のほうを見ている。


 30年前、グランバードのすぐ隣の小さな島で大量の魔物が発生したらしい。どうやら魔物が巣を作ってしまったらしく、その魔物たちが海を渡ってグランバードに侵入してきてしまったようだ。討伐隊が大量に派遣されたが何人もの死者が出てしまった。のんびりと争いもなく平和な暮らしをしてきたグランバードでは武力がほぼ皆無に等しかった。


 あるのは豊富な農作物と、昔から伝わる魔法だけ。どこぞのゲームとは違って生きている中で魔法は非常にコスパが悪かった。この世界ではだれでも魔力という物が備わっているものの、簡単には発揮できないものらしかった。


 火を起こすだけでも魔法を使えば疲労困憊で倒れる程だ。水を生み出そうとすれば全身筋肉痛、マッチを擦れば井戸で水を汲めば、一瞬で終わることだ。魔法はあまり国には浸透しなかった。


 しかし、魔法使いという職業は廃れなかった。使い方によっては攻撃にもなるし、英知を簡単に授けることもできるのが魔法だ。そこまでのレベルになるのは至難の業だが、いないことはなかった。


さっきの老人が鑑定士、人のステータスを見極められる専門の魔法使いだ。若い女性がガイドマスター、この国の言語や知識をまったく知らない人に魔法で脳に直接送り込む専門の魔法使いだ。知識量は調節できるみたいだ。で、俺と隣の若者の光の輪の大きさの違いが与えられた知識の差だろうな。格差を感じる。


俺にわかったのはこの国の言語と、この国の最低限の歴史と知識。ここの世界で暮らしていくには十分な知識量だ。


「勇者キサラギよ。それから……ああ、サイトー、貴殿にはとても申し訳ないことをした」


 キサラギ……隣の若者はキサラギというらしい。しかも、勇者と呼ばれて。


 俺はというとバンダイルから申し訳なさそうな顔で謝られただけだった。というか、俺には勇者と称号が付いていない。なんとなく事情を察した。ガイドマスターはなぜそれを教えてくれなかったのかわからないけど、おそらく俺は魔物を倒すべく異世界から召喚された勇者、のついでに巻き込まれたただの一般人らしい。

 国家レベルの機密情報があるのか知らないけれど、薄々察してしまう。多分召喚は一方通行でもうあの世界には帰れないみたいだ。だから俺はここで一人ぼっちで生きていかなければならない……そういったニュアンスのことをバンダイルから告げられた。


「私たちも異世界の旅人をもてなしたいのも山々ですが、どこも魔物にやられてしまって十分なもてなしが出来ないのです」

 ブリューリアもすまなそうな顔をしている。ふむ、読めるぞ。キサラギ君をめいっぱいもてなしたいから俺の分はナシってことだな?


 まぁ、俺は何の能力も持っていない一般人だからな。鑑定士の鑑定してくれたステータスだって勇者らしいキサラギ君は金色だったのに対して俺のは何の特別感も感じられない緑色だった。

 隣のキサラギは勇者たる資格をお持ちなのだろう。さっきから俺の境遇について言い訳みたいなものを聞かされている。気を使われている。どんな時代でも嫌なものだ。


 正直、俺はどこで何しようが構わないんだけどな。あっちの世界でも職業はサラリーマン、独身、彼女もいないし、特に没頭できる趣味もないし、ペットも飼っていなかった。大事なものもそんなにあった訳ではないし、そこまで大切な友達も居た訳ではないから、ぶっちゃけそこまで取り乱してもいない。大事なものもそんなにあった訳ではないし、そこまで大切な友達も居た訳ではないから、ぶっちゃけ、そこまで取り乱してもいない。


 もっと正直なことを言えば新しい人生を送れそうでワクワクしてさえいる。どうやら俺はついでに召喚されてしまったようだからしがらみもなさそう。

 仕事やら家はこれから自分で探さなくちゃいけないっぽいけれど、勇者みたいにケガして冒険をする必要もなさそうだ。この世界はパソコンでデータを集めて表票にしたりなんて作業はなさそうだし上下関係もあるにはあるが、ブラック企業なんてものはなさそうだし、まだこの場所しか知らないけれどのんびり農作業してまわりと助け合いながら暮らせばまともな生活が出来そうだ。


 王様たちとキサラギ君には申し訳ないが、俺はこの世界を楽しませてもらうぜ。


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