悪役令嬢、賢者に転生する。
私はとある貴族の令嬢として生を受けた。
幼い頃から甘やかされて育ったのもあり悪逆の限りを尽くした。
そのせいで領地は荒れに荒れ、私の一族は領民から謀反を起こされた。
私は足に重りをつけられ。
町の外れにある池に投げ捨てられた。
歪む視界。
霞む意識。
私は水死した。
はずだった。
気づいたら髭もじゃの爺さんに抱えられていた。
反射する水面で見た私の姿は。
金髪だったはずの髪は真っ黒な髪の毛に。
大人だったはずの体は幼い子供になっていた。
「お主は悪逆の限りを尽くした」
髭もじゃの爺さんは言う。
「だからお前は罪を償わなければならぬのじゃ」
そして剣を渡された。
「この剣で人々の助けとなるのだ」
「私、剣なんて使ったことないんだけど」
「何、簡単なことだ。ただ、悪い人間を斬れば良い。剣が勝手に動いてくれるよ」
「ふーん」
「罪を償った暁には新たな生を約束しよう」
「めんどくさいからこのままで良いんだけど」
「ならば、その体のままで永久に生き続けるがいい」
「なによそれっ!!」
そうして私はしぶしぶ旅に出た。
悪い奴、悪い奴はいねーかー。
私は剣に問いかける。
すると剣がカチャカチャと動き出す。
どうやら悪い奴はあっちにいるらしい。
「おう、坊主。良い子だから金置いていきな」
「こ、この金は妹の為に薬を買う為のものなんだ。見逃してくれよ」
「だめだ。よこしな」
ゴロツキ共が弱者から金を奪う。
この辺の町にはよくある光景だった。
どれもこれも私が悪逆の限りを尽くしたせいなんだけどね。
剣は言う。
あいつらを斬れと。
「あなた達、やめなさいよ」
「はぁ?なんだ、嬢ちゃん。嬢ちゃんも俺達に恵んでくれるのか?」
私は有無を言わさず剣を振るう。
剣は光り輝きながら男たちを一閃の元に伏した。
「ひ……人殺しいいいい……」
少年は腰を抜かして叫び声を上げる。
私もこんな軽々と剣を振るえるとは思っていなかったので少し放心していた。
ふと剣を眺めてみる。
あれ……?
血が一滴も付いていない。
どういうこと?
しばらくして倒れ伏していた男たちがノッソリと起き上がる。
「あー……悪かったな。坊主。気を付けて家に帰れよ」
先程とは打って変わって爽やかな声で男達は去って行った。
なんなの、この剣。
もしかしてこれってこの剣の効果なの?
これはいずれ『剣の賢者』と呼ばれる一人の少女の物語。
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