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雨夜の月  作者: こたつ、34、久本陽太、monaka、羽黒
8/8

アマツブ

 夜も遅く、月がまもなく最も高い場所へと昇るであろうこの時間。


 飛んだり跳ねたりするというカエルは今も忙しなく鳴いていており、青色の花を咲かせているであろう紫陽花は雨粒が葉を叩かれ、我が家の庭は連日振り続ける雨で川のようになっているであろう。


 それでも雨はザーザーと振り続ける、廊下から入ってくる雨で湿気ったぬるい風がランプの火を揺らし、その度に彼女の影も揺れる。


「こほっこほっ!」


 苦しそうに口を抑えて彼女は咳をし、喉を片手で抑えながら水差しへと手を伸ばす。

 その水差しは軽くひょいと持ち上がり、思わず彼女はバランスを崩しよろよろとなってしまう。


 どうしたことだろうとバランスを取り直した彼女が水差しを見ると、水差しの水は底にほんの少しだけ残っているのみだった。


 今日は少し夜更かしが過ぎてしまった。

 そう言わんばかりに本にしおりを挟んで閉じた彼女はやってしまったと肩をすくめる。


『お前は体が弱い、だから部屋を出てはならない』


 彼女の頭に父親の命が過ぎり、彼女は迷う。

 そして少しの迷いの後仕方がない、見つからなければいいと自分に言い聞かせ、ランプをもって高鳴る心臓の音を聞きながらそっと戸を開く。


 その白く細い足を畳から板張りの廊下につける。廊下の冷たさがその足の裏に伝わり、その感覚に彼女の緊迫していた顔がほうと緩む。


 そして雨音で満たされた手に持ったランプの灯りしかない真っ暗な廊下を1歩ずつ慎重に音を立てないように歩いていく。

 ふと見た窓の外は雨で暗く、まるで墨汁を垂らしたかのようだった。


「はぁ……はぁ……」


 床の冷たさが彼女の体温を奪い、少しずつ辛くなり息が荒くなる、しかし彼女はなんとか台所にたどり着く。


 少し休憩した後ランプを台の上に置き、水差しに水瓶から水を入れ、重くなった水差しとランプを持って台所を出て足音を忍ばせ部屋へと戻り始める。


 1歩、また1歩と初めて体験する緊張感の中彼女は足を進め、次の曲がり角を曲がれば自分の部屋へとたどり着く時、彼女の耳はその音を捉えた。


 ミシッミシッミシッミシッ


 1歩1歩と廊下の曲がり角の先からこちらへ近づいてくる足音が聞こえ、彼女はどこかに隠れなくてはとキョロキョロと辺りを見回す。


 すると横の部屋の戸がほんの少しだけ開いており、彼女はその部屋に駆け込んでランプの火を絞る。


 ミシッミシッミシッミシッミシッミシッ…………


 遠ざかっていく足音を聞いて彼女はふぅと息を吐く、すると安定していたランプの火が突然フッと消える。


 彼女がどうしたのだろうとランプに手を伸ばすとその部屋はなんだか明るく、外からは雨音がしないことに気がつく。


 彼女は月明かりが差し込んでいるほんの少しだけ開いていた雨戸を非力な腕でなんとか開ける、すると外からはほんの少し雨の匂いを残した風が吹き込み彼女の髪をふわりと広げる。


 吹いてきた風に思わず目を閉じた彼女は恐る恐る目を開ける。


 そこには未だに鳴き続けているカエルと葉に滴を貯えた青色の紫陽花、そして池のようになっている初めて見た庭には空の星々が映り込み、まるで足元にも星空があるかのようだった。


 彼女は着物の裾が濡れるのも厭わずその庭に飛び出し、くるくると笑顔で回る。そして彼女は暫くして岩の上に寝転がると、月に向かって手を伸ばす。


 岩の冷たさが心地よく、彼女は目をゆっくりと閉じてゆく。

 そして月に向けていた手もゆっくりと下ろされ彼女が目を閉じてしまうとその手は力なくちゃぷんと水に落ちる。


 彼女の手が沈んでいる水面にはそれは綺麗な三日月が映り込んでいた。


以上こたつの作品でした!

今回は題材が「梅雨」という事でしたのでこのような作品にさせていただきました。

一言に梅雨と言っても人によって様々な感じ方があると思い、読者の皆様次第でこの話の終わり方が違うような作品に仕立てあげてみました。

楽しんで読んでいただけたなら幸いです!

本日から投稿開始した自分の新作であり、TS2作目となる「ドラゴンガール」も是非目を通していただけたら幸いです!


こたつ

@kotatu_omoti


という訳で読者の皆様ここまで読んでくださり誠にありがとうございます、そしてお疲れ様でした。

これにて今回の「梅雨」を題材としたSS集はお終いとなります。

いかがでしたでしょうか?目的の方の作品だけでなく他の方の作品にも目を通して楽しんでいただけたでしょうか?

今回のSS集を機に目的の方以外の方にも興味を持っていただければ幸いです。

この度は羽黒さん企画のSS集にて、トリと参加者の皆様の作品を投稿する大役を担わせて頂きました。この場で改めて御礼申し上げます。

また自分自身もこのような機会があれば是非とも参加したいと考えております。

どうか読者の皆様、参加者一同の作品をこれからもどうか末永くよろしくお願い致します。

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