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雨夜の月  作者: こたつ、34、久本陽太、monaka、羽黒
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紫陽花とナメクジ 壱:蛞蝓≠僕

 窓の外を眺めると今日も相変わらずの雨。梅雨だからと言ってこう毎日毎日降られると憂鬱な気持ちがさらにどんどん落ち込んでいく気がする。

 いや、梅雨のせいにしてもしょうがない。

 そんな事は分かってる。ただ自分が悪いだけなのだ。


 むしろこの憂鬱な気持ちこそがまるで梅雨そのものじゃないか。


 こんな気持ちのままじゃ、仮に雨が止んだとしても僕の中の梅雨は終わらないだろう。


 ふと外の様子が気になり窓の外を眺めると、窓のすぐ下に植えられている紫陽花に目が行く。

 紫陽花の花は雨に打たれながらも鮮やかで、葉っぱにナメクジが居るのが見えた。

 こんな雨の日にナメクジも大変だなと思ったのだが、どうやら奴の頭上では葉が重なり、傘となって雨粒が当たらない位置らしい。

 雨宿りでもしているのだろうか?


 正直羨ましく思う。

 紫陽花と言えばカタツムリとかナメクジっていうイメージがあるけれど、世間的にはそれが適した居場所として認識されている。


 自分にはいるべき場所も無いし、自分が居るべき場所だと思い込んでいた所は……

 本当は僕なんて必要としていなかった。

 居るべき場所どころか、居てはいけない場所だった。みんなから迷惑がられ、邪魔者でしかなかったのだ。

 それに気付かずに、ここが自分の居場所だなんて思っていた自分がひたすら恥ずかしいし惨めだった。


 お前にすら居場所があるっていうのにな。

 僕は葉の上でじっとしているナメクジにすら嫉妬していた。


 そもそもカタツムリとナメクジって何が違うんだろう。


 どうでもいい事が気になってネットで調べてみた。……これが正しい情報かどうかは分からないけれど、ナメクジというのはカタツムリから進化した物なのだと書いてあった。


 本当だろうか?


 カタツムリは自分の背中に、それこそ自分の居場所を背負っている。

 自分の家を所有している。


 しかし、ナメクジにそれは無い。

 進化の過程で必要無い物だと認識したという事だ。


 なぜ?


 身を守る為の殻を捨てる事に意味があったのだろうか?

 弱い身体をさらけ出す事に何か意味があるのだろうか?


 その判断はとても理解できない。

 僕は弱く、現実を知ってしまってからというもの、家から出れていない。

 この家、この部屋はいつだって僕を守ってくれる。


 いわばこれが僕の殻だ。

 外の世界に僕の居場所は無い。自分が閉じこもる事の出来る、カタツムリの殻のようなここが、唯一安心できる場所だった。


 梅雨の雨からも、街の喧騒からも、そして、僕の友人……だと思っていた奴等からも。


 ここから出て弱い自分を晒しながら生きるなんてとても考えられない。


「お前って、意外と凄い奴なのかもな」


 そんな独り言を呟いてしまうあたり、僕は少しおかしいのかもしれない。


 その晩、寝苦しさから布団を撥ね退け、出しっぱなしになっていたペットボトルのぬるい水を飲みながら昼間のナメクジの事を思う。


 本当は進化した姿なのにカタツムリより下に見られがちなあいつらが少しだけ可哀想になってきて、布団の上をごろごろ転がりながらスマホでカタツムリとナメクジについてもう少し調べてみた。


 畳の上に直に敷かれた布団はなんだかじっとりしていて、梅雨特有の湿気と息苦しさでどうにも寝れる気がしなかった。

 時計を見てみると現在の時刻は夜中の三時半。別に明日も学校へ行く予定は無いので時間なんてどうでもいいか。

 眠くなったら寝ればいい。起きたくなったら起きればいい。

 外に出たくなったら……。


 出たくなる日が来るなら出ればいい。


 殻を捨てる勇気が出るなら。

 その勇気を出せるなら。


 ……ナメクジよ。どうやら僕はお前みたいにはなれないみたいだ。

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