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雨夜の月  作者: こたつ、34、久本陽太、monaka、羽黒
1/8

驟雨1/2

わっちは、つくづく梅と縁のある女でありんす。

 小恥馬鹿らしゅうありんすが、わっちの前身は酷い親不孝者でありんした。


 饅頭臭いチビの頃から、ご亭さんや姉さん方には面倒を見て貰いんして、さぁこれからと言う時に、うっかり瘡毒を患ったのでありんす。

 瘡毒、今で言う梅毒でありんす。梅毒なんてと今の方は馴染みが薄いんでありんしょうし、見たこともございせんでありんしょうけど、この患いは遊女にはつきものの病。


 わっちの姉さんは「一度かかっちまえば子も孕まず、瘡毒も怯えずにすみなんし。怖いものなどありんせん」と申しんすが……いえ確かに一人前の証に違いありんせん。罹ったわっちは、姉さんの気持ちもよくわかりんす。


 けど、わっちゃあ嫌でありんす。

 梅の花はどれだけ華麗に咲こうとも、花開けば散りぬるのがさだめでありんす。いえ、花は散れども樹は残りんす。ただ瘡毒って奴は洞のように沸いて、肉を腐らせ、わっちの身体を蝕みんす。


 それがわっちゃあ恐ろしくてかないんせん。日に日にこの身は醜くなりんす。鼻は欠け、歯も抜け、髪すら薄くなってしまいんすから、ヲンナどころか人の顔ではござりんせん。


 わっちは、散るのを待たずに枯れるんが嫌になりんした。いずれ果てる命なら、いっそ今すぐ燃やしつかわそうと、胸の中を悪い病が満たしていったんでありんす。


 文久二年、六月。

 わっちの最期は雨が降っておりんした。

 梅の木に縄を括り「あい、おさばらえ」と身を吊るしたんでありんす。


 ※


 だから、親不孝者のわっちぁ罰が当たって当然でありんす。


 目が覚めたわっちの身体に足はありんせんした。死んで幽霊になりんした……とも思いんしたが、どうもそうではござりんせん。


 夜窓へ写ったわっちの姿は、かたっきし人の形をしておりんせん。

 それはもう醜い醜い『テルテル坊主』でございんした。


 あい、今のわっちは紐で吊るされ部屋に曝けた、一匹の咎人でありんす。

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