勇者
「お兄さん、空から落ちてきたよね。もしかして神様?」
「悪いが、俺は人間だ。ところで、ここはどこなんだ?」
「ここはライゼンハルグの森だよ!」
ライゼンハルグ……聞いたことのない名前だ。とりあえず、地図が見たい。彼女は察するかのように、
「そうだ!私の村に案内するよ!お兄さんボロボロだし!地図とかも見たいよね!」
「ああ、助かるよ。本当にありがとう。」
道中、彼女は俺の話に食い入るかのように興味を示した。魔王軍、祖国の娯楽や食い物、外国の文化に触れるのは初めてらしい。その子犬のような目の輝きは右手にもつ弓矢とはかけ離れている。
「飛んでくるのが木から見えたときは、ほんとにびっくりしたよ!!だって、[伝承]とそっくりだったもん。私もみんなもさわいでた!」
伝承?なんだそれは。
「そういえば、お兄さんの名前聞いてなかったね」
「そうだった、俺の名前はホムラ・アリシオン。君は?」
「私は二ファっていうの、よろしくね!」
そして、ようやく村が見えてきた。
「あ、見えてきたよ」
二ファが指を指すと、そこには多くの村人が立っており、俺を出迎えているようだった。赤子から年老いた女性まで、総勢50人ぐらい確認することができた。彼らは俺の姿を見るなり、さわぎ始めた。そして、厳格な雰囲気をもつ初老の男性が前に出てきた。
「おお、勇者様。よくぞ私たちの村にきてくださいました。さあ、こちらへどうぞ!」
長老のようだ。
「おお!!勇者様が来たぞー!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「私たちはまだ生きてもいいのね!」
そういうことか。俺は[伝承]を理解した。
人々の声は喜びに満ちている。中には泣き出すものも。どうしよう。とんでもないことになっている。二ファは……申し訳なさそうな顔をしている。村に入ると、木で作られた、いかにもそうな椅子が要されていた。
「あの、俺は……」
誤解を解く暇もなく、
「さあ、どうぞ、どうぞ」
長老が催促する。
玉座に座るないなや、すぐに余興が始まった。美人なお姉ちゃんのダンス。酒。ご馳走。皆が尽くしてくれる度に不安が募る。俺はなにをすればいいのか。
太陽が下がり、月が上がった。綺麗な満月だ。宴は落ち着き始め、俺は長老の家へ招かれた。そこには二ファもいた。
「折り入ってお願いがあります!私たちをお救いください!」
長老はまるで、頭を槌のように頭を床に打ち付けた。
「近頃、我々の漁場に現れた怪物を仕留めるのに力を貸してほしいいのです!」
ある程度予想はしていた。鮫とかクジラの類だろうと。だが、魔女に比べればどうということはない。
「わかりました、力を貸しましょう。」
二ファは驚いた顔をしていた。これだけもてなしてもらって断るのは信条に外れる。彼は涙を流し、
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
と繰り返した。
用意された寝室にて。さてどうするか。扉が開く。二ファが現れた。
「ごめんね、みんな変な期待をしちゃって。これ、地図と3日分の食料だよ。ここから、西の門なら出ることができるよ。」
「いや、俺はやるよ。色んな世話をしてもらった恩を返したい。それに、こんなただの人間に見えるような俺にすがるんだ。力になりたい。」
二ファは「ついてきて」とだけ言った。
村を出て、月明かりの下を歩く。歩く。そして、道らしい道を通る。馬車が数台並んでる進めるくらいの幅で、整備された長い道を。両脇には高さ10mの大木が列をなしている。そこを抜けると、綺麗な砂浜が広がっていた。
「ザッザッザッ」
砂浜を歩くのはいつぶりだろう。
「ザバーッ、ザバーッ」
寄せては引く波音が沈黙を強調する。
「どうしたんだ、いったい」
「あれを見て」
指差す方向を見る。はるか遠くに黒いシルエットが不気味に動いている。何かが泳いでいる。うねうね。長細いなにかが4……5……8個。なんだあれは?月光に照らされ、それがわかる。とてつもなく大きい…8つの首をもつ蛇だった。腰が抜けそうになる。
「あれが怪物だよ。ホムラさん、だめだよ。逃げて。」