空
これは理不尽に抗う人々の物語。
意識が朦朧とする中、耳に響くのは仲間の断末魔と魔法が奏でる歪な金属音。
魔王軍の進行。廊下の窓から城壁を超える「魔女」たちが見える。あの様子じゃ、もう前線は壊滅状態だろう。城に侵入した1匹の魔女を殺すのでさえ仲間が4人も死んだ。6人もいてだ。残った仲間はもう虫の息だ。
「魔女」というのはただ単に皮肉でつけられた名で、この世の生き物とはひどくかけ離れている。全身が黒く、体長が3mから5mで、メンフクロウのような顔をした人型の生物だ。奴らにかかれば、俺たちを肉塊にできるなんて容易だ。それのほどの腕力がある。その上、手のひらからは炎、水の弾丸、風の刃が出せる。
そんな奴らが数百と、この城壁都市に雪崩れ込む。ほんと絶望的だ。姫様がここから逃げるための時間稼ぎをするのだが、そう長くはもたないだろう。
謁見の間に続くこの廊下。夕日が血を照らす。姫様の安否を憂う。
「グシャッ」
振り返ると、壁にはめり込んだ赤黒い物体が。その存在に気づくと同時に剣を構える。突如現れた彼(彼女?)は短髪で異国の服を着ており、唇にはルージュ。話に聞いていた魔王軍の幹部であろう。
「あらぁ、戦うのぉ?」
「一応忠誠は誓ったんでな」
「あらぁ、そう?」
こちらに近づく度に聞こえるハイヒールの音が神経を逆撫でする。どんな攻撃をする?人間か?勝てるか?その瞬間、
俺は唇を奪われた。
瞬きの間に4mの狭間を埋めたのだ。反射で剣を振るが、容易く躱す。
「可愛いわぁ、タイプかも」
唇に指を抑える乙女のような仕草と男らしい顔は嫌悪感すら覚える。全身に実力の差をひしひしと感じる。喝を入れるため、柄をギュッと握るが、そこに刃はなかった。刃は小麦粉のようにぱらぱらになり、崩れ去っていった。いや、まだ戦える。俺は拳を構える。
「まあ!まだ戦おうとするの?じゃあ生かしてあげるわ」
彼が何かを口ずさむと
「バシューン!」
俺の体は何かに引っ張られるかのように窓の外へ、ものすごいスピードで。空を飛んでいる。いや、投げられている。城壁都市が一気に小さくなる。
近郊の村ーーー鉱山ーーー生まれ育った故郷の村ーーーいつか駆けた山々ーーー記憶にある様々な場所を越す。
俺の体は止まることを知らない。気づけば海の遥か上を通過している。死を覚悟し、主人の安否や思い出を振り返っていると、感じたことのない重力に意識を持っていかれた。
しばらくして、眩しい朝日に起こされた。俺はまだ空。どれだけ飛ぶんだ。しかし、高度は建物3階ぐらいの高さであり、大地が下に見える。スピードはだいぶ落ちている。悪いことに俺は前方に広がる森にぶつかるようだ。
3…2…1…
「バキバキッ、グシャッ、ボキボキッ、クシャクシャッ」
木々を破壊しながら、角度をもって森の中心に落下する。
「ベハッ」
大地にバウンドする。どうやら生きているらしい。五体満足で。しかし、どうするか。周りはまさにジャングル。奇妙な動物たちの声がこだまする。戸惑いながらも考える、見晴らしのいい場所を探すか…。腰をあげると、少女の声がする。
「お兄さん、お兄さん」
と俺を呼ぶ声がする。やっぱり俺は死んでいたのかな。歩き始めると前方の木の陰より、褐色の肌の少女がこちらを見ていた。
主人公が多く登場するので、長編になると思います。