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多重神格のテイクオーバー  作者: 豚肉の加工品
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最弱の烙印

「魔女が剣を握ったら…………」の最新話が消えたから気分を乗らせるための適当な話し。

続きはいつになるかは神のみぞ知る話しでもある。

それは一瞬の出来事だった……

視界は目の間に立つ男の血潮で深紅に染まり、男の体を通して向こう側の景色が見えるようになっていた。

錆びた鉄のような匂いが鼻腔を貫き、吐き気を催すような香り。

「〝椿〟…………あとは、任せてもいいか?」

視界一杯に広がる深紅の溜まり、そして信頼し信用してきた親愛のおける人物。

そして一本の錆びた刀がその女性の腹部を貫通し地に突き刺さっていた。

〝ヤツら〟が亜空間から急襲してきて人は何人もの人間が喰い尽くされた。

その中には家族や友人も入っていたが、子供ながらに心はイカれていたのかそんなもの達に対しては何も思うことはなかった。

でも、

「……………」

それでも口から出る言葉は幼い時の俺から出ることなく無言のまま立ち尽くしてしまった…………

俺はあの時、どれだけ大切な人が死んでしまったのか気付くことが出来れば運命が変わっていたのかもしれない…………。




天井から木漏れ日が差し浮かび上がる埃が雪のように見えなくもない幻想的な空間に満ちている学園外に建てられた廃教会に一人。

ボロボロに風化した長椅子を背に、隣に赤黒く色づく包帯が巻かれた漆黒の鞘に血に染みこませたかのような深紅の柄が刺さる刀を置いた少年がいた。

更に言えば所々に亀裂が入る精霊王と人類の伝説を模した鏡画を背後に寝老けている。

スー、スーと綺麗に寝息を立てているが刀が白濁色の靄を発すると瞼がゆっくりと開いていった。

「はぁ……あーまたこれかよ」

やけに鮮明に再生される過去の出来事に悪態をつきながら体を起こし、隣に置いてある一刀を見る。

「お前が見せてんだろうな……あれの夢を」

勿論、刀は言葉を話すことはない。

その代わりこの廃れた教会の扉が嫌な音を立てながら開かれた。

「椿様。何をしているのですか?」

現れたのは前髪を綺麗に整えた黒髪の少女。

腰には藍色の鞘に柄をしたシンプルな刀を帯刀している大和撫子だ。

「うーん……まぁサボったってことになるよね」

「そんなことは分かり切っています…………。私が言いたいのは学園順位最下位の椿様がどうして精霊教会の精霊王の像の前で寝腐っているのか?ということを聞いています」

溜め息交じりに会話を交わしていたが、椿の返答を待つ前に静かに腰に帯刀している獲物を鞘から藍色の刀に手をかける姿を目にした椿は即座に立ち上がった。

「ま、まぁ落ち着けよ桜、そんな怒んなって……な?」

これだから泡沫家の女は嫌だ……なんてことは口が裂けても言えない。

いや、冷静に考えてみても授業をサボっている椿が悪いのは分かり切っているのだが…………

「これを怒らず何を怒れと?あと数分後には四回目の決闘デュエルがあるのですよ?それなのに我が泡沫家の現当主は……授業を無断で休み、決闘デュエル成績は三戦三敗の結果、加えて最弱当主とまで罵られる日々。これが泡沫家の三女として許しておけると……?」

こちらに歩きながら指折り数えている自分の失態の数々。

別に恥だとは思っていないけど……なんてことも口が裂けても言えない。

「お、俺のは実戦過ぎて授業の一環みたいなやつじゃ使えねぇんだよ!…………です。」

怖い、怖すぎるぞ桜……。

今のお前の瞳には慈悲と言う感情が見えない。

「そうですか、そうなんですか。未だに精霊を使った授業にも出ず、武器を用いての戦闘訓練にも顔を出さずにそんなことを言いますか」

頷き辛い。

当主が弱いからという事実が招いたことで泡沫家を馬鹿にされていることが許せないのは分かる。

でも、それは仕方ないことだと思って欲しいがこんなこともただの傲慢にしか過ぎない。

「ごめんな」

もう出せる返答はこれしかない。

「はぁ…………。分かりました、たった今決めました」

一回深い溜め息を挟み、今まで手をかけていた柄から手を離す。

「姉さま達から誘いを受けています、泡沫家から移動しないか?と。この三回は断って来ましたがもう無理です。ここまでの恥辱を受けることになるなら私も姉さまと一緒に移動することに決めました」

綺麗にお辞儀し、下を向いたまま

「今までありがとうございました。これからはもう関わることもないでしょう」

綺麗な方向転換、綺麗な姿勢で扉の方まで歩み始める桜。

その背を見つめる椿の表情は、丁度雲で太陽が隠れたのか影になり分からなかった…………





今から丁度十五年前にこの世界に現れてた精霊という存在。

これを聞けば最近のことにも聞こえるがこれまでの被害は甚大なものだった。

精霊開花という突然の現象により人々は約七十億もいた人間は半分以下の約三十億とまで減少、地球の面積の半分は暗雲に閉ざされ人間や動物が生存していられる場所は激減し様々な人種が未だに残るユーラシア大陸と日本列島に集中的に移住してきた。

そこから集まった様々な科学者、研究者の活躍により得体の知れない『精霊』という一個体を早期解明に成功。人体に精霊を結びつけることに成功、これを人々は契約手術テイクオーバーオペレーションと名付けた。

「ここまではこの日本防衛精霊戦闘学校、通称戦学に入ったからにはしっかりと知識に入れてるなー」

気怠そうに精霊知識を教える逢坂華僑という女性教師が第一訓練場にいる三十人に向けて言った。

今から行われるのは精霊顕現と精霊武装の実戦授業についての先行説明。

「じゃぁ次はーあぁ……泡沫椿」

「なんすか?」

「お前にとっての精霊っていうのは何だー」

「うーん。そうすっね、友達とかそんな感じっすわ」

「はい不正解、てかやる気がないなら家に帰っていいぞー」

逢坂先生がそういうのも椿の態度が悪すぎるから、とかではない。

周りの反応は嘲笑と軽蔑の眼差し。

「マジすか?んじゃぁ、帰りますねーっと」

ここまでの流れは椿にとっていつもの流れ、つまりは日常なのだ。

ヘラヘラと笑いながら第一訓練場を立ち去っていく椿の背に視線を送る生徒は誰もいない。

だってこれが彼らにとっての日常でもあるのだから。

そもそも何故こんなにも泡沫椿という人間が蔑まされているか?

先程、逢坂華僑が説明した契約手術テイクオーバーオペレーションというものを受けていないのにも関わらずに戦学に入学してきたからというのがまず第一。

実力主義という言葉が今の世界を往復している中、泡沫家現当主ということだけで入学できたコネ野郎だと思われているのだ。

その次は言わずもがな弱いからだ。

週に一度だけ行われる決闘デュエル制度での成績が一学年最下位だという事実。

主にこの二つが原因で入学当初から三週間ずっとこんな感じなのだ。

「んじゃぁ、とりま授業再開」

椿の耳に聞こえるのは逢坂先生の気怠そうな授業再開の合図。




「あぁ…………帰って来れたなー」

いつものと同じ午前授業、昔の高校で言えば毎日が三時間授業だ。

泡沫と木彫りしてある大きな門を開き「ただいまー」なんて言ってみる。

「あっお帰りなさい」

「あれ?何でここにいんだ?日花ひばな

門を潜ると優雅に洗濯物を干す森羅家現当主 森羅日花の姿があった。

二人の娘とイケメンの夫がいる若々しい四十台だ。見た目は二十台半ばにしか見えないが…………

「何でじゃないわよ、あんたが泡沫家当主としての力を示さないから朝日ちゃんと夜月やづきちゃんが悪態をついてきたわよ。森羅家に入りたいって」

あぁー、森羅家に行こうとしてたのか…………まぁそっちの方が安全か

吹き抜けに腰かけると、日花は洗濯物を干すのをやめ隣に座る。

「入れってやってくれない?そっちに。多分俺といるよりあんたの所にいる方が安全だ」

「本当にいいの?先代〝椿ちゃん〟との大事な約束なんでしょ?」

先代〝椿〟。これは泡沫家にしかない一つだけの名前。先代から名前を呼ばれた人物が泡沫家の当主となり本名を隠さなければならないという決まりだ。

「何かあったら光の速さで助けに行くよ、もちろん。ほら家庭環境最悪だから一緒には居たくないんよ」

「そんなことは椿が悪いでしょう。容赦なく当主としての力を示せばいいのに」

「会議の時も言ってるけどさ。俺にとっての契約は友達になること。力を振るうのは家族や友達がピンチの時だけだ。こんな自意識過剰なガキの前で振るうなんて〝あいつら〟に失礼だ」

「あんたもガキでしょうが…………って言いたいところだけどね~。ことがことだったからね」

まぁ、

隣から立ち上がり門の方向に体を向ける。

「当主として舐められるのはこっちも迷惑被るからしっかりね。娘たちがボヤいてたわ、椿が年られているせいで私達も舐められるってね。せめて一回くらいは圧倒して勝ちなさい。これは母親としてではなく森羅家現当主からの言葉よ」

「あぁ、わかった」

そこから音もなく日花は泡沫家から立ち去った。



「そろそろ俺の試合時間か…………




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