第9話 武器選び
冒険者ギルドの奥にある裏口から外に出ると、そこには百メートル四方ほどの広い広場がある。
木で作られた案山子や的が並んだ、如何にも冒険者のための訓練場といった場所だ。
既に訓練のために訪れた若者たちが、案山子を相手に各々の武器を振るって体を鍛えている。
威勢の良い掛け声がそこかしこから聞こえてくる。
それを目にしたアメルは、圧倒されたように目を丸くしていた。
今日の彼女は、昨日着ていたワンピース姿ではない。麻のシャツにズボン、ブーツと動きやすそうな格好をしている。
これはレオンが彼女のために用意した訓練用の服なのだ。
レオンは訓練している若者たちに目を向けて、言った。
「此処が訓練場だよ。僕が教えている冒険者志望の子供たちが戦技の特訓のために使っている場所なんだ」
「戦技?」
「武器を使った戦いのための技……かな。剣の振るい方とか、槍の突き方には技の名前があってね。それを総称して戦技と言うんだよ」
レオンはアメルを連れて、訓練場の隅に設置されている武器置き場へと向かった。
煉瓦を組まれて立てられた壁に、様々な種類の武器がずらりと立て掛けられている。
短剣。長剣。大剣。双剣。槍。戦斧。短弓。長弓。槌。
どれも木製で、長く使い込まれている雰囲気のある品ばかりだ。
「これが武器だ。冒険者が使う基本的なものを一通り揃えてある」
「たくさんあるね」
「これでも全部ってわけじゃないんだ。中には扱いが特殊なものもあるからね」
例えば銃は、その希少性から流通しているのは国軍の兵隊の間のみに留まっている。
鞭は元々相手を仕留めるために用いる武器ではないため、扱うのは個人の趣味によるレベルだ。
そういう武器の扱い方に関しては、冒険者ギルドでは教えていないのである。
「アメルには、此処から好きなものをひとつ選んでもらうよ」
「どうやって選ぶの?」
「そうだなぁ……」
レオンは腰に手を当ててしばし考えた後、長剣を手に取った。
「オーソドックスなのが長剣かな。剣術士を目指す子は大抵これを選ぶよ。中には大剣を使うための基礎訓練用として最初にこれを選ぶ子もいるけど、それは特殊なパターンかな」
次に双剣を手に取る。
「双剣は、両手に一本ずつ持って使うかなり癖のある武器だ。でも盾が持てない代わりに連続で技を繰り出せるという強みがあるから、使いこなせるようになればかなり強い。その分習得するのが大変だけどね」
槌を手に取って、ぶんっと軽く振るってみせる。
風圧がアメルの前髪を吹き飛ばし、彼女はびくっとなった。
「槌は……本当に腕力に自信のある人向けだね。標的を叩くだけの武器ではあるんだけど、ある意味斧よりも扱いが難しい。今のアメルには無理かもしれないね」
槌を壁に立てかけて、レオンはアメルの背に優しく手を触れた。
「最初はどれも素人なんだから、難しく考える必要はないよ。自分に合ってそうだと思うものを選ぶといい。後で変えることもできるからね」
「うん……分かった」
アメルはこくんと頷いて、並んでいる武器たちの前に立った。
「それじゃあ……」