第8話 アメルの決意、レオンの決意
アメルは、不思議な雰囲気はあるが話してみると普通の年頃の子らしい少女だった。
紅茶を美味しいと言いながら飲み、レオンの質問には多少考え込みながらも一生懸命に答えた。
しかし、彼女の記憶に関する話になると彼女は首を振るばかりだった。
唯一彼女が答えられたのは。
「……水晶?」
「うん」
レオンの問いに、アメルは目を閉じながら答えた。
「緑色の水晶がきらきらしている場所が、あるの……全部が水晶に包まれていて、緑色に見える場所なの」
それが本当に水晶なのかどうかは分からない。
しかし、彼女はそれを大切な記憶にまつわる場所だと信じていた。
「私、この場所に行きたい。そこに行ったら、きっと自分のことを思い出せる。そんな気がする」
レオンの記憶の中には、その場所は存在していなかった。
きっと、彼が今までの旅生活のなかでは行ったことのない場所にある世界なのだろう。
自分が彼女をその場所に連れて行くことはできない。
……しかし。彼女にその場所に行くための力を与えてやることはできる。
レオンはアメルに話を持ちかけた。
「ねえ。冒険者になるつもりはあるかな?」
「冒険者?」
首を傾げるアメルに、熱心に説いた。
「僕はこの街の冒険者ギルドで新米冒険者たちの指導教官をやっているんだ。外の世界の歩き方とか、魔物との戦い方とか、そういうことを教えてる」
テーブルの上で両手を組み、真面目な顔をして、アメルの顔をじっと見つめた。
「僕は、君を君の記憶の場所に連れて行くことはできないけれど、そこまで行くための力を君にあげることならできる。無理強いはしないけど、君にとっても損はしないことだと思うよ」
冒険者は命を張る職業だ。
魔物との戦いに身を投じたり、時には国同士の戦争に兵士として駆り出されたり、平穏な暮らしは殆どできなくなると言っていい。
しかし、それでもレオンがアメルを冒険者の道に誘うのには理由があった。
彼は、アメルに強く生きてもらいたかったのだ。
彼女がこれから先一人になっても。自分の足で先へと歩いていけるように。
「君にその気があるなら、僕は命を賭けて君を教えるよ。どうかな?」
「…………」
アメルは自分の体に視線を落とした。
「……私にも、なれる?」
「なれるよ」
レオンは頷いた。
「武器の扱いとか、向き不向きはあるけれど、なろうと思えば必ずなれる。僕が教えるんだもの、間違いはない」
間違いはない、力強く言われたその言葉に。
アメルは微笑みを浮かべて、こくりと首を縦に振った。
「うん、なる」
胸に手を当てて、彼女はレオンの目をまっすぐに見つめ返した。
「私、水晶のところに行きたい。そのために必要なことなら、頑張るよ」
「分かった」
微笑むレオン。
「明日から、僕と一緒に冒険者ギルドにおいで。まずは君に扱える武器を選ぶことから始めよう」
「うん!」
張り切るアメルを見て、レオンは思った。
必ず、彼女が一人前の冒険者になって旅立つところを見送ろうと。
それが自分に与えられた大きな使命なのだと、自分に言い聞かせるのだった。