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第67話 その体石の如し

 体に染み付いた習慣というものは、体がどうなっても変わることはないらしい。

 太陽が顔を出す少し前に、レオンは目を覚ました。

 上体を起こそうと全身に力を入れる──が、体は重たい石か何かに変わってしまったかのように、全く動かなかった。

 それでも何とかして起き上がろうと奮闘するも、次第に息が切れてしまい、結局彼は自力で起きることを諦めた。

 力の入らない四肢をだらんと伸ばした格好のまま、時間が過ぎていくのを静かに待つ。

 窓の外が明るくなり、空が白んで綺麗な水色に変化して。

 鳥の声が次第に大きく聞こえるようになってきた。それくらいの時間になって、アメルが目を覚ました。

 彼女は目を擦りながら起き上がり、レオンの方を見て口を開いた。

「……おはよう、レオン」

「おはよう」

 彼女はベッドから降りてくると、レオンの枕元に膝を付けた。

「起きないの?」

「起きるよ。だけど……」

 レオンは微妙に困った顔をして、言った。

「体に力が入らないんだ。すまないけど、起きるのを手伝ってもらっていいかな?」

「うん」

 アメルに手を貸してもらい、ようやくレオンは起き上がることができた。

 全身が麻痺が解けた直後のように奇妙な感覚に包まれていた。それをむず痒く感じて腕を擦りながら、彼はふうと息を吐く。

「朝御飯、作らなきゃね」

 床に手を付けて、立ち上がろうとする。

 ぷるぷると震える腕。

 彼は立ち上がるどころか、体のバランスを崩して布団の上にひっくり返ってしまった。

 頭をぶつけ、ごつんと音が鳴る。それにびっくりしたアメルが、慌てて彼の体を抱き起こした。

「無理しちゃ駄目だよ、レオン」

「……参ったな」

 自分の体に視線を落とし、レオンは呟いた。

「こんなに体が弱ってるなんて、思ってもみなかった」

「車椅子持って来るね。ちょっと待ってて」

 アメルはレオンの体からそっと手を離し、立ち上がって隣の部屋へと駆けていった。

 レオンは目の前に右手を持ってきて、それを握ったり開いたりを繰り返しながら、溜め息をついた。

「……こんな時に、問題が起きたら……」

 もしもアメルを狙っているビブリード帝国が襲ってきたら。

 君のことは僕が守ると約束したのに、これでは約束を果たせそうにない。

 僕は、嘘つきになってしまうのか?

 複雑な面持ちで考え込んでいる間に、アメルは隣の部屋から車椅子を運んできた。

 慣れた手つきでレオンの目の前に車椅子を止めて、彼女はレオンの隣にやって来る。

「一、二の三で持ち上げるよ」

 レオンの腰に手を回して、彼女はすっと息を吸った。

「一、二の……三!」

 立ち上がった拍子にひっくり返りそうになったが、何とかレオンは車椅子に座ることができた。

 レオンを乗せた車椅子を押して、アメルはリビングへと向かう。

「朝御飯、私が作るね」

「ありがとう。卵があるから……スクランブルエッグにでもしようか」

「うん」

 テーブルの傍に車椅子を停めて、アメルは張り切った様子で台所へ向かった。

 考えていても仕方がない。時間が経って体が解れれば少しは自分で動けるようになるだろう。

 背凭れに背中を預けて、レオンはアメルが料理を作ってくれるまでゆったりとそこで穏やかなひと時を過ごしたのだった。

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