第61話 穏やかな朝と残念な料理
夢を見た。
夢の中で、彼は小さな棺の中に入っていた。
その周囲を、見知った顔の人々が手に花を持って囲んでいる。
皆口々に何かを言いながら、手にした花を棺の中に入れている。
彼はそれを、他人のことのように上空から見下ろしていた。
ナターシャがやって来た。
ピンクの花を持った彼女は、いつも通りの顔をしながら棺に近付いて、それを顔の横へと入れた。
じっと顔を見下ろして、呟く。
「……この子を残して死んじまうなんて、薄情だね、あんた」
腹の辺りを撫でて──彼女は、力のない溜め息をついた。
彼女と入れ替わるようにして、アメルが彼の枕元に立った。
髪の色に劣らない、眩い白さの花を持っている。
真新しい鎧に身を包んだ彼女は、花を彼の胸元に置いて、言った。
「……私が一人前の冒険者になったところを、見てもらいたかった」
全てを諦めたような表情をして──彼女は、彼から顔を背けて呟く。
「育てるだけ育てておいて、最後までちゃんと見てくれないなんて、酷い」
棺の蓋が、閉じられる。
何処からともなくやって来た男たちが、棺を担いで何処かへと運んでいく。
神父が死者を弔う言葉を述べている。それに引き連れられるようにして、男たちは棺と共に皆の前から姿を消した。
彼は複雑な表情をして、その様子を黙って見つめていた。
「…………」
レオンは目を覚ました。
何とも心地悪い目覚めであった。
全身を強い倦怠感が包み込んでいる。
のろのろと身を起こし──それだけで切れる息に少々鬱な気持ちになりながら、辺りを見回す。
見慣れた寝室の風景と、乱れた床上の寝床。窓の外は綺麗に晴れており、澄んだ青空が目に入る。
しばらくそのままの状態でいると、ぱたぱたと足音が近付いてきて──ひょっこりと、アメルが部屋の外から顔を覗かせた。
「おはよう、レオン」
「……おはよう」
レオンは微笑んだ。
「すまないね。君の寝床を取っちゃって」
「元々そこはレオンのベッドだったんでしょう? 私は床でも寝られるよ、気にしないで」
アメルは手にしたお玉をレオンに見せながら、言った。
「今、御飯作ってたの。レオンの分も用意するね」
「ありがとう」
台所へと戻っていくアメルを追うように、レオンは室内履きを履いてリビングへと向かった。
テーブルの上には、少々焦げた目玉焼きと黒パンが丸のまま置かれていた。
どうやら、アメルはあまり料理が得意ではないらしい──それでも一生懸命料理を作ってくれたことに感謝しながら、レオンは戸棚からカップを取り出して台所へと移動する。
台所では、アメルが火にかけた鍋の中身を懸命に掻き混ぜていた。
ほんのりと香るスパイスの匂いと野菜の匂い。鍋の中身は野菜スープのようだ。
「もう少しでできるから、待っててね」
「何処に何があるかも分からなかっただろうに、わざわざ作ってくれたんだね。すまないね」
「ううん。私、レオンのために何かしたいって思ってたの。私だって、やろうと思えばできるんだよ」
アメルはスープを掻き混ぜる手を止めて、笑った。
「はい、できたよ。今よそうね」
言いながら、彼女はスープをよそうための器を取りにリビングへと行く。
レオンは鍋を覗き込んだ。
随分と色の薄いスープが、湯気を立てている……これは味が薄そうだなと思いながら、彼は棚からミルクを取り出した。
カップにミルクを注いでそれを一気飲みして、カップを流しに置く。
器を持って戻ってきたアメルと入れ替わるようにしてリビングに行き、自分の椅子に腰掛けてスープが来るのを静かに待つ。
「はい、どうぞ」
アメルが運んできたスープの器を受け取って、彼は頭を下げた。
「それじゃあ……いただきます」
スープをスプーンで掬って、一口。
舌の上でスープを転がして、飲み込み、苦笑した。
「……味、ないね」
「えー」
そんなはずない、とスープを口に含むアメル。
こくん、と口の中のものを飲み込んで、しばし沈黙した後、言った。
「不味いね!」
「出汁が足りなかったんだね。でも……」
もう一口スープを口に入れ、レオンはふっと笑う。
「作ってくれて、ありがとう」
「う、うん」
照れたようにアメルは頬を赤くした。
──そんな感じで、御世辞にも美味しいとは言えない料理を囲んだ朝食の時間は、柔らかい笑顔と共に穏やかに過ぎていったのだった。




