第54話 勇者の意地
腿に命中した砲弾は、肉を深く抉って大きな穴を空けた。
血が滝のように流れ出て、石畳の上に広がっていく。
激痛と共に生じる、鈍い痺れのような感覚。
やられた──足を見つめながら、レオンは歯を食いしばった。
「全く、手こずらせおって」
がしゃん、と機動装甲がレオンの目の前まで迫ってくる。
エヴァは悠然とレオンを見下ろしながら、言った。
「その足では抵抗できんだろう。大人しく我らの言うことに従えば命だけは助けてやっても良い」
彼は操縦席を立ち、腕を組んで、続けた。
「娘を我らに渡してもらおうか」
「…………」
荒い息を吐きながらエヴァを睨み付けるレオン。
自分のことがどうなろうと、最後まで抵抗する。その決意が全身から滲み出ていた。
彼の沈黙を否定の意と取ったエヴァが、ふう、とわざとらしい溜め息をついた。
「……全く、我らの温情を無碍にするとはな。これだから勇者を名乗る奴はいけ好かんのだ」
機動装甲から降りてきて、銃の先端をレオンへと向ける。
「せめてもの情けだ。貴様はこの私自らの手で葬ってやろう。機動装甲の砲撃では形が残らんからな。貴様も五体満足の体で墓に入りたいだろう?」
額の中心に標準が合わせられる。
トリガーに掛けられた指に、ぐっと力が込められた。
……万事休す、か。
レオンは目を閉じた。
「レオン!」
彼を呼ぶ甲高い声。
此処で聞こえるはずのない声に、レオンは驚愕して目を見開いた。
冒険者ギルドの中から飛び出してくる少女の影。
アメルは脇目も振らずにレオンの元に駆けてくると、彼を抱き起こした。
「しっかりして、レオン!」
「アメル……駄目だ、出てきたら」
レオンは身じろぎしながら彼女に建物の中に入っているように言った。
しかし、アメルは首を振った。
「レオン一人を危険な目に遭わせるなんて、私にはできないよ!」
「娘が自ら出てきてくれるとはな。これは都合が良い」
エヴァは銃を下ろして、アメルに手を伸ばした。
彼の手がアメルの肩を掴む。
「さあ、こっちに来い!」
「嫌!」
アメルはエヴァから顔を背けて力一杯叫んだ。
ばぁんっ!
エヴァの後ろにあった機動装甲が派手な音を立てて爆ぜた。
がらがら、と金属の破片が辺りに飛び散る。
急にただの鉄屑と化した機動装甲を見て、ローランが青ざめた。
「そんな、機動装甲を一撃で……」
「レオンをいじめないで!」
きっ、とエヴァたちを睨むアメル。
放たれた力の塊が、ローランの機動装甲を飲み込む!
機動装甲は爆発し、周囲に火の粉を撒き散らした。
「ひいっ!」
ローランは慌てて崩れ落ちる機動装甲から飛び降りた。
レオンは足を引き摺りながらも、立ち上がった。剣を構えて、荒い息を吐きながら、二人を睨みつける。
「アメルは渡さない。まだ諦めないと言うのなら相手になる、ビブリード帝国!」
「その体でまだ戦うか、諦めの悪い奴め!」
「甘く見るな!」
血を辺りに撒き散らしながら、レオンは一歩踏み込んだ。
一閃した剣が、エヴァの手にした銃を斬る!
銃は真っ二つにこそならなかったが、衝撃でエヴァの手を離れて遠くに飛んでいった。
思わず飛んでいった銃を目で追うエヴァ。
その喉元──兜の下に、剣先が突き入れられる。
うっ、とエヴァは呻いた。
「帰って上官に報告するといい。アガヴェラはお前たちの脅しなどには屈しないとな!」
「うぬぬぬぬぬ」
エヴァは一歩ずつその場を後退り、落ちていた銃を拾った。
「やむを得ん、退くぞローラン!」
「そんな、エヴァ隊長、娘は……」
「馬鹿者、この状態で無理矢理連れて行こうとしても抵抗されるだけだ! そんなことをしても我々が痛い目を見るだけなんだぞ! 少しは状況を考えろ!」
「ま、待って下さいよ~!」
レオンたちに背を向けて駆け出すエヴァを、ローランが必死になって追いかけていく。
レオンはそれを油断なく見つめていたが、やがて二人の姿が視界から消えると、安心したように息を吐いてその場に崩れ落ちた。




