第53話 機動装甲VS勇者
だだだん、だだんと砲弾を連射するローラン。
レオンを狙って撃たれたそれらは、レオンの脇を掠めて石畳の地面を弾けさせた。
レオンは機動装甲に肉薄しながらそれを見上げた。
機動装甲の大きさは二メートル半。それほど大きいものではないが、その黒いボディは鋼鉄製である。
まず、剣では斬ることはできないだろう。機動装甲は攻撃するだけ無駄だとレオンは判断した。
それなら、何処を狙うか。
答えは簡単。操縦している人間である。
どんなに強力な兵器も、操縦する人間がいなかったらただの鉄の塊にすぎない。
しかし、普通に狙ったのではまず手は届かない。相手は銃を持っているので、迂闊に近付いたら狙撃される可能性がある。
ならば、どうやって叩くか。
それも、単純な話である。反撃されない状況を作り出せば良いのだ。
レオンは機動装甲の側面に回りながらポケットをまさぐった。
取り出した噴煙玉を、爪で擦ってローランめがけて投げつける!
操縦席に飛び込んだ噴煙玉は、ぶしゅーっと勢い良く煙を噴き出した。
大型の魔物の視界すら奪う煙は瞬く間に操縦席に充満した。
「な、何だ!? ごほっごほっ、けむい、目に沁みる!」
機動装甲の動きが止まる。
その隙に、レオンは機動装甲の側面に付いていた足場に手を掛けた。
一気に機動装甲のボディをよじ登り、操縦席に飛び込む。
懸命にばたばたと手を振って煙を追い払おうとしているローランめがけて、剣を振り下ろした!
しかし、充満した煙はレオンの視界も遮った。剣は空しくローランの脇を掠め過ぎ、がつんと椅子の背凭れに命中した。
「うっ、うわぁぁ!」
いきなり目の前に現れたレオンにびっくりしたのだろう。ローランが悲鳴を上げながら銃を構えた。
ぱんっ、ぱぁんっ!
銃弾はレオンの頬を掠めていった。
ぴりっとした頬の痛みにレオンは顔を顰めながら、右の剣を振り上げる!
がきん!
剣先に、重い衝撃が走る。
剣はレオンの手を離れて地面に落ちた。
「!」
「ふはははは、私がいることを忘れたか、勇者!」
銃を構えたエヴァが哄笑している。
レオンがローランに気を取られている隙を狙って、狙撃したのだ。
ローランはぎょっとしてエヴァの方を向いた。
「ちょっと、エヴァ隊長! 下手したら自分に当たってたんじゃないですか、今の!」
「勇者を倒すためだ! 我慢しろ!」
「我慢も何もないですよ! 殺す気ですか!」
怒鳴ってから、力一杯レオンの足を狙って突き飛ばす!
不安定な場所に立っていたレオンは、その一撃をかわしきれず仰向けにひっくり返った。
機動装甲から転落し、背中から地面に激突する。体を衝撃が駆け抜けて、思わずレオンは咳き込んだ。
「潰れろ!」
機動装甲が足を持ち上げる。
踏み潰されそうになったところを、レオンは地面を転がって避けた。
落ちていた剣を拾って立ち上がり、機動装甲を睨み据える。
ふー、ふー、と荒くなった呼吸を懸命に整える。
ちょっと動いただけなのに息が上がるとは何て情けないんだ、と独りごちた。
早いところ決着を着けないと、先に体力が尽きて動けなくなるのは自分の方だ。自分が弱っていることを知られる前に、何とかしてあの兵器を無力化しなければ。
しかし、噴煙玉を使った手はもう通用しないだろう。相手も馬鹿ではない、次に同じ手を使ってもあっさり対処されるに違いない。
どうやって仕掛ける? どうやって叩けばいい?
「どうした、機動装甲の前には手も足も出んか、勇者!」
だぁんっ、と砲撃を仕掛けるエヴァ。
反射的に避けようと駆け出したレオンの右足を、砲弾が貫く!
「……!」
レオンは失速して、転がりながら地面の上に倒れてしまった。




