第51話 独り立ち
その日から、レオンは屋内外問わず一日の大半を椅子に座って過ごすようになった。
訓練場にいる時も椅子に座り、子供たちに伝えたいことがある時は彼らを自分の元に呼んで話をするようになった。
アメルの教育方法にも変化が起きた。
ギルドの仕事を使って彼女を街の外に連れ出す教育方法に変化はなかったが、時間がかかってもなるべく魔物がいないような道を選んで歩くようになった。
彼は、自覚していたのだ。自分にはもう、魔物相手に平然と戦えるような力は残っていないのだということを。
アメルの方も、それは薄々と察しているようで。
彼女は今まで以上に、真面目に訓練に取り組んでいた。
自分の中に眠る破壊の力に頼るのではない、自力で困難を乗り越えていけるようになろうとするように。
魔物相手にも怯まず、怪我をすることも恐れずに、戦った。
最初の頃と比較すると、それは目ざましい成長ぶりであった。
これならば、そう遠くないうちに一人前の冒険者として独り立ちできるようになるだろう。
レオンは、そう思っていた。
「アメル。君は一人の冒険者として立派に成長した。そのことを僕は嬉しく思うよ」
訓練用の双剣を握るアメルに、レオンは微笑みを向けて言った。
「そろそろ、一人で仕事を受けてもいい頃合いなんじゃないかって僕は思ってる。君が良ければ訓練を次の段階に移すけど、いいかい?」
「うん」
アメルは臆することなく頷いた。
「いつまでもレオンに頼るんじゃなくて、私の力だけでお仕事ができるようになりたい」
「いい答えだ」
レオンは一枚の仕事受注書を取り出して、アメルにそれを差し出した。
「スナイプバードの卵の採集……採集依頼ではあるけど、スナイプバードは巣に近付く者を攻撃してくるから場合によっては戦いになることもある。巣を探すためには木に登らないといけないから、体力も必要になってくる。これを、君一人の力でこなしてほしい」
「……分かった。私、やるよ」
受注書を受け取って、アメルは力強く拳を握った。
「レオンは此処で、帰りを待ってて。必ず、やり遂げてみせるから」
「スナイプバードと戦う時は嘴に気を付けるんだよ。槍みたいに鋭いから、つつかれたら怪我するからね」
隣で二人の遣り取りを見つめていたナターシャが助言する。
ありがとう、と礼を言って、アメルはすっかり自分専用となったいつもの双剣を腰に装備した。
受注書を折り畳んで腰のポケットにしまい、レオンから受け取った麻袋を肩から下げる。
「それじゃあ、行ってくるね」
意気込んで訓練場を出ようとした、その時だった。
「皆、逃げろ! ビブリードが来た!」
建物の向こうで男の叫びが響いた。
「!?」
表情を険しくするレオンとナターシャ。
訓練場にいた子供たちは訓練をぴたりとやめて彼らの元へと駆けてくる。
建物の扉が開いて、ラガンが顔を出した。
「レオン、また奴らが来た! 連中、変な兵器に乗って目茶苦茶やってやがる!」
「……レオン」
ナターシャが心配そうにレオンを見る。
レオンはすぅっと息を吸って、椅子から立ち上がった。
「ナターシャは子供たちを頼む」
「レオン、私も一緒に戦う!」
名乗りを上げるアメルの頭を撫でて、彼は小さく首を振った。
「奴らの狙いは君だ……だから、君もナターシャと一緒に此処にいるんだ」
「でも!」
「……ありがとう、僕のことを気遣ってくれて」
微笑んで、アメルの頭から手を離す。
「でも、人と殺し合いなんてするもんじゃない。そんなことをするのは僕一人で十分だ」
レオンは腰の剣を抜いて、皆に背を向けた。




