第50話 後悔はしていない
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二人がリンドルの街に帰り着いた時、空は茜色に染まり始めていた。
アメルは収穫した香草を冒険者ギルドに納品し、報酬の銀貨三枚を受け取って随分と嬉しそうにしていた。
まだ夕方まで時間があるからと張り切って訓練場に向かう彼女とは対照的に、レオンは息を切らして椅子に座り込んでいた。
随分と、苦しそうだった。まるで体力の限界まで走り込みを行った後のようだった。
彼を心配したナターシャが、彼の傍に来て声を掛けた。
「……大丈夫かい。随分と辛そうだね」
「……ナターシャ」
胸に手を当ててぐっと息を飲み、レオンは前を向いたまま答えた。
「体力が、落ちたらしい」
「……呪いが進んだってことかい」
ナターシャの表情が僅かに曇る。
「これからは、自分の状態に合った行動を取るように心がけるんだね。あの子が旅立つところを、見届けるんだろう?」
「……ああ」
訓練場の中をぐるぐるとランニングするアメルを見つめて、レオンは頷いた。
「それが僕の、最後の使命だからね」
「…………」
ナターシャは複雑そうな顔をして何かを考え込み、そっと、レオンの肩に手を置いた。
「ねえ、レオン」
レオンがゆるりと視線を持ち上げてナターシャの顔を見上げてくる。
それを見つめ返して、彼女は言った。
「あんた、魔族と戦ったことを後悔してるかい」
「……どうだろうね」
レオンは前に視線を戻した。
「あの時の僕は、魔族の手から世界を守ることで頭が一杯だったから、後のことなんて全然考えてなかった……今だから言えることだけど、僕は戦いのことしか考えていなかったんだよ」
勇者として皆の先頭に立たなければとか、そういうことは一切考えていなかった。
ただ、戦うために自分は存在していた……今思い返せば、当時の自分は使命に雁字搦めになっていたのだろう、と思う。
それは果たして、正しいことだったのだろうか。
今となっては、分からなかった。
でも。
「僕は英雄になりたくて戦ったわけじゃないけど、僕が戦ったことで、多くの人の命が救われたんだろうとは、思ってる。……そう考えたら、きっと戦ったことに関しては後悔していないんだろうなって、思うよ」
「……そうかい」
ふぅふぅと肩で息をしているレオンを見つめて、ナターシャは思った。
やはり、この男は……今でも勇者なのだな、と。
「今は一日でも長く生きてあの子の成長を見守るのがあんたの仕事だ。そのためにあたしをこき使ってくれても構いやしないから、体は大事にするんだよ」
「…………」
レオンの頭がことんとナターシャの体に寄り掛かる。
レオンは目を閉じて、深い呼吸を繰り返していた。
ナターシャはレオンの肩を抱いて、それからは何も言わず、黙って彼の隣に佇み続けたのだった。




