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第49話 窮地を救った力

「う……ッ!」

 レオンは発しそうになった悲鳴を何とか飲み込んだ。

 それは、殆ど意地だった。一緒にいるアメルに心配をかけさせるわけにはいかない、その思いだけが彼の体を支配していた。

 みし、と嫌な音がする。

 レッドドラゴンが肩を食いちぎろうとしているのだ。それに気付いたレオンは、懸命に左の剣を振るった。

 剣の刃が、レッドドラゴンの顔を貫く!

 レッドドラゴンは声を上げて、レオンを吐き出し彼から顔を背けた。

 その隙にレオンは立ち上がり、レッドドラゴンの目を狙って一撃を繰り出した。

 右手の斬撃が目を切り裂く──が、浅い。

 レオンの剣は瞼を浅く斬っただけだった。眼球までは傷付いていない。

 それでも目を狙われたことは分かるのか、レッドドラゴンが咆哮してレオンを睨み付けた。

 再度咬み付こうと彼に迫る。彼はそれを横に跳んで避けた。

 足下がふらついていた。息が上がり、肩が激しく上下している。

「……はぁ……はぁ……」

 ぐっ、と息を飲み、レッドドラゴンを睨むレオン。

 彼の体力は、限界に近かった。

 彼の体は此処まで歩いて来ただけで体力を失ってしまうほどにまで衰えていたのだ。

 これでは、とてもではないが目の前のこの脅威を撃退できるほどの力は出せない。

 流石に、まずいかもしれない。そう独りごちながら、彼は右の剣を大きく振りかぶった。


 アメルは遠く離れた場所でレオンの戦いを見守っていた。

 しかしレオンがレッドドラゴンに咬まれ、動きが鈍っていく様を見せつけられ、いてもたってもいられなくなっていた。

 このままではレオンはレッドドラゴンに負けるだろう。その未来が垣間見えたような気がしたのだ。

「レオン!」

 アメルはレオンが戦っている場所へ駆け出した。

 胸中で、思う。

 お願い。もしも私にあの魔物を追い払えるほどの力があるのなら──

 きっ、とレッドドラゴンを睨む。

 あの魔物を、やっつけて! レオンを助けて!

 ぐんっ、と目の前に見えない力が集まるのを彼女は感じ取った。


 ばきばきばきっ!


 アメルの正面に立っていた木が残らず吹き飛んで、倒れた。

 彼女の意思によって生まれた不可視の力は弾丸のように宙を貫いていき、レッドドラゴンの頭に命中する!

 頭がばくりと割れて、大量の血が飛び散る。

 レッドドラゴンはギャアアと悲鳴を上げて大きく仰け反った。

「!」

 突如としてレッドドラゴンを襲った力に目を見開くレオン。

 レッドドラゴンは目の前のものを嫌がるようにその場を数歩後ずさると、大きく翼を広げた。

 木が茂っている中を強引に飛び上がり、そのまま枝をへし折りながら空へと逃げていく。

 気配はみるみる遠ざかっていき、叫び声の余韻を残して、彼の目の前から姿を消した。

「…………」

 レオンは荒い息を吐きながら、構えを解いた。

 息が苦しい。目一杯肺に酸素を取り込みながら、自分の元に駆けてくるアメルに目を向ける。

 アメルはレオンの元に飛び込んでくると、縋り付くようにレオンの体を抱き締めた。

「レオン!」

「……アメル、今のは……」

 痛む肩に顔を顰めながら、尋ねる。

 アメルはぎゅっとレオンの体に自らの顔を押し付けながら、言った。

「私の力で、レオンを助けてってお願いしたの……」

「……そう、だったんだ」

 レオンは倒れている木を見た。

 アメルをリンドルの森で見つけた時と同じ光景がそこにあった。

 あの時あの場所にあった木を倒したのはアメルの力によるものだったのだ、と悟って、身が縮まるような思いを感じ取る。

 この子の力は……おそらく、これだけの威力に留まらない。その気になったらこの辺り一帯を吹き飛ばすこともわけないだろうな。

 国軍が彼女の力を欲する理由も、分かる気がする。

 だけど。

 レオンは表情を引き締めた。

 この子に、これ以上破壊の力を使わせるわけにはいかない。この子のためにも……早く一人前の冒険者としての力を与えてあげないといけないんだ。

 レオンはアメルの背中をぽんぽんと優しく叩いて、言った。

「……ありがとう。君には助けられたね」

「……レオン、肩が……」

 左の掌にべたりとした感触を感じて、アメルは目を丸くした。

 レオンは呼吸を整えながら、微笑んだ。

「大丈夫……大した怪我じゃないよ」

 鞄からハイポーションが入った瓶を取り出して、蓋を開ける。

 苦いその薬を一気に飲み干して、ふうと息をついた。

「竜は此処にはしばらく来ないだろう。少し休んだら、街に帰ろう」

「……うん」

 空の瓶を鞄に入れて、レオンはその場に腰を下ろした。

 今はとにかく、体を休めたかった。街に帰り着けるだけの体力を取り戻すために。

 僕も衰えたな……と思いながら、彼は頭上を仰いだ。

 木が吹き飛んだことによって見えるようになった空を鳥が横切っていく様子が見えた。それを目にしながら、しばらくの間体力を戻すことに集中したのだった。

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