第48話 命を狩る火竜
レッドドラゴン。火竜とも呼ばれる。主に切り立った崖などのある険しい山に棲む魔物である。
体長はおよそ五メートルほど。大型になると八メートルを超える。他の大型の魔物や動物なんかを襲って餌とする肉食性の魔物で、狩猟のために山を下りて獣が多い森に現れることもある危険な存在なのだ。
此処にいるということは、狩りをしに山を下りてきている最中なのだろう。
幸い、木々が上手く視界を覆ってくれているお陰で、レッドドラゴンが二人に気付いている様子はない。
しかし、竜は基本的に嗅覚に優れる。いつ二人の匂いを嗅ぎ取って存在に気付くか分からない。
レッドドラゴン、の一言に身を強張らせるアメルの前に立ちながら、レオンは腰の剣を抜いた。
「……相手はまだこっちに気付いてない。今のうちに、音を立てないようにしてこの場を離れるんだ」
こくこくと頷くアメル。
二人は摺り足で、レッドドラゴンがいる位置とは反対方向に移動を始めた。
レッドドラゴンは凶暴だ。こんな見通しの悪い場所で戦うことだけは何としても避けたかった。
一メートル。二メートル。三メートル。
少しずつ、レッドドラゴンとの距離が開いていく。
大丈夫、このまま逃げられる──レオンがそう思ったその矢先のこと。
「しゃげー!」
すぐ間近で奇声が上がる。
びっくりして振り向くと──いつからそこにいたのだろう。丸っこいフォルムをしたダチョウのような生き物と目が合った。
ブラウンエミュー!
レオンは舌打ちした。
レッドドラゴンに気を取られていたせいで他の魔物への注意が疎かになっていた自分の失態を悔いたのだ。
しかし、そうしたところで状況が好転するわけではない。
ブラウンエミューは小さな翼を羽ばたかせながら、奇声を上げてレオンたちがいる方向へと突進してきた!
「くっ!」
レオンはアメルを押し退けてブラウンエミューの突進を避けると、振り向きざまに右の剣を一閃させた。
剣の刃がブラウンエミューの足の付け根を切り裂く。ブラウンエミューは悲鳴を上げて、傍の木にどしんと激突した。
まずい、こんな大きな物音を立てたら──
嫌な予感がして、後方を振り向くレオン。
木々の間からこちらを見ているレッドドラゴンと──目が合った。
レオンは叫んだ。
「アメル! 走って!」
レッドドラゴンが咆哮する。びりびりと空気を震わせる声に恐怖心を掻き立てられそうになり、レオンは下腹に力を入れた。
アメルがその場を走り出す。その姿を隠すように、レッドドラゴンの視界の中心に立って剣を構える。
ブラウンエミューがよたよたしながらレオンの方に体の向きを直す。
再度突進してくるのを、レオンは身を翻して避けた。
レッドドラゴンが──走る。
空を翔ける生き物であるとは思えないほどの俊敏さで、レッドドラゴンはレオンに迫ってきた。
たまたま目の前にいたブラウンエミューに頭から喰らいつく。ばつん、と体を半分以上持っていかれたブラウンエミューは、残った体から血と内臓を零して草むらの上に転がった。
森の匂いに混ざる生臭い臭い。その臭いを嗅いで興奮したのか、レッドドラゴンはレオンに向かって血まみれの口を大きく開いて吼えた。
竜は全身を固い鱗に覆われている。生半可な威力の斬撃は弾かれてしまう。
狙うなら──目だ!
レオンは駆ける。真っ向から、レッドドラゴンに向かって。
レッドドラゴンの金の目を狙って一撃を繰り出す。
しかしそれは、命中する後一歩というところで鼻先に弾かれてしまった。
ぎょろり、と金の目がレオンを睨む。
レオンは慌てて距離を置こうとして──木の根に足を取られて、よろけた。
「!」
尻餅をつく形で地面に倒れるレオン。
そこに、レッドドラゴンの牙が迫る。
慌てて立ち上がろうとしたレオンの右肩を、レッドドラゴンの牙が深々と貫いた。




