第46話 薬草採集
小高い丘が幾つも連なっている。
近くに見えるのは、小さいながらも密度のある森。
平原の真ん中を小川が流れており、水を求める野生の獣の姿がちらほらと見える。
広大な自然の大舞台。そのような言葉がしっくり来る場所に、レオンとアメルは佇んでいた。
「此処が、リンドル平野。平野とは言うけど森や川がある天然の狩猟場だ。今日は此処で、薬草採集の仕事をやってもらうよ」
「広いね。色々な生き物がいそう……」
遠くを見渡してアメルが感想を述べる。
レオンはそうだねと相槌を打って、肩に掛けている鞄から仕事の受注書を取り出した。
「野生の獣が多いけど、魔物も多く棲んでいる場所だ。滅多にはないことだけど、竜が目撃されることもある」
「竜……」
アメルの顔に緊張の色が走る。
大丈夫だよ、とレオンは笑った。
「もし竜がいても、こちらから刺激をしなければ大丈夫だ。何かあったら僕がアメルのことを守るから、心配しないでいいよ」
「うん……」
アメルは頷くが、不安の色は完全には消えなかった。
彼女は、杞憂しているのだ。またレオンが発作を起こして倒れたら、自分は彼のことを守ることができるのだろうか、と……
現に、レオンの顔色は何処か優れない。今までと比較して元気がないように彼女には見えていた。
ひょっとして無理をして元気なように振る舞っているのではないのかと、思っているのだ。
アメルの視線に含まれている感情に気付いたのだろう。レオンは優しく彼女の背中を叩いた。
「僕の心配はしなくていい。僕なら大丈夫だから……アメルは仕事のことだけを考えて」
「……うん」
アメルは頷いて、レオンから受注書を受け取った。
広げて、内容を確認する。
仕事の内容は、アメルの花とイーニャの花の採集。どちらもこの平野に自生している香草で、アメルの花はポーションの材料に、イーニャの花はハイポーションの材料になる植物である。
受注書に書かれている二つの花の特徴をよく見て覚え、アメルはレオンに受注書を返した。
受注書を鞄にしまいながら、レオンは言った。
「この二つの花は、そのまま食べても多少は怪我の具合を良くしてくれるんだ。割と何処にでも生えている植物だから、出先でポーションを切らした時は代用品として探すといいよ。薬効は薬には劣るけど、何もない状態よりは全然いいからね」
「うん、分かった」
アメルは腰の双剣を抜いた。
レオンは遠くの川を指差して、言った。
「アメルの花は川の傍なんかに生えていることが多い。まずは川まで行ってみようか。好戦的な魔物がいるかもしれないから、周囲の警戒だけは怠らないようにね」
アメルはこくりと頷いて、川を目指して歩き始める。
レオンはそれにやや遅れる形でついていく。
見晴らしが良いこともあって、特に危険な目に遭うこともなく、二人は川の傍に到着した。
川の水が太陽の光を反射してきらきらと輝いている。中を覗くと、小さな魚が水の流れに逆らって懸命に泳いでいる様子が見えた。
川に沿うようにして、背の低い植物が生えている。しゅっと尖った葉っぱのもの、小さな花を咲かせているもの、種類は様々だ。
その中に銀色の花を付けている植物が紛れているのを見つけて、アメルは声を上げた。
「これ、そうかな?」
「見つかった?」
レオンはアメルが指差す植物に注目した。
「うん、そうだね。アメルの花だ」
「それじゃあ、採るね」
アメルは植物の前にしゃがんで、手にした双剣でアメルの花を刈り取った。
刈り取った花は、レオンが持っている小さな麻袋の中に入れる。
アメルの花は、そこかしこに生えていた。それらを全部刈り取ると、麻袋の半分が埋まるほどの量になった。
「何か、思ってたよりも簡単に集まったね」
「運が良かったね。普通はこんなにすぐには集まらないものなんだけど……群生地になってたのかな」
レオンは自分がかつて同じ仕事を請け負った時のことを思い出した。
あの時はなかなか香草が見つからなくて苦労したっけな……と少々懐かしい気持ちになり、微苦笑する。
冒険者にとっては運を味方にすることも大切な素質のひとつなのだ。どうやらこの子にはそれがあるようだね、と彼は思ったのだった。
「アメルの花はこれくらいでいいかな。次はイーニャの花を探そうか」
「うん」
「イーニャの花は森によく生えてるんだ。あそこの森まで行ってみよう」
森は平原よりも魔物が多いから気を付けるんだよ、と声を掛けて、彼はアメルに森に向かうように促した。




