第44話 国軍からの誘い
部下を二人引き連れた兵士長は、ギルドカウンターのところでレオンが来るのを待っていた。
レオンが彼らの前に姿を現すと、兵士長は一礼をして兜で覆われた顔を彼へと向けた。
「忙しい中申し訳ない。実は貴君に尋ねたいことがあってな」
「どうかなされたんですか?」
レオンが尋ねると、兵士長はうむと頷いて話を切り出した。
「貴君のところに……娘がいたな? 何でもビブリードに狙われているとのことだが」
「……アメルが、何か?」
国軍はもうそんなことまで知っているのか、とレオンは思った。
何処でそのような情報を手に入れているのかは定かではないが、国軍の諜報員の働きは侮れない。
「その娘が、魔法の力を持っているという話を耳にしてな」
魔法。それはおそらく、彼女が言う『破壊の力』のことを指しているのだろう。
「最初は魔族の残党なのかとも思ったが……そのような力を持つ存在を一般市民として置いておくには惜しいというのが我が軍の意見でな」
兵士長は何処からか書簡を取り出して、レオンに差し出した。
書簡を受け取り、開いて内容を確認するレオン。
「その者に、是非とも我が軍に協力して頂きたい。飛空艇団に加わり、ビブリードと戦ってもらいたいと思っているのだよ」
……確かに書簡には、そのような内容のことが書かれている。
レオンは眉間に皺を寄せた。
「……アメルは冒険者でもない一般国民ですよ。それを戦争に参加させるというのは……」
「現在の我が軍の戦力だけでは向こうの飛空艇団を押さえ込むだけで精一杯なのだ。我々は何としても突破口を開かねばならん。理解して頂きたい」
レオンの苦言にも兵士長は引かない。
「その……アメル殿は何処にいるのだ? 是非とも彼女に会わせてもらいたい」
「……あの子は今冒険者を目指して訓練しているところです。会わせるわけにはいきません」
レオンはきっぱりと言った。
「あの子は、戦うために生まれてきたんじゃない……僕たちが戦火に引き込むような真似はしてはいけないんです」
「その戦火を収めるための戦なのだ。話せば、きっとアメル殿にも納得して頂けるはずだ」
「レオン殿はかつて魔族と戦った勇者なのでしょう? それなのに戦に参加して下さらないから、代わりにお願いしてるんじゃないですか」
兵士長の後方に控えていた兵士の片方が言った。
「レオン殿が我々と共に戦って下さったら、この戦争なんてとっくの昔に終わってたんですよ。責任を放棄しておいて責任がないような言い方はしないで頂きたい」
「…………」
僕が戦争に参加していたら、この戦争はとっくの昔に終わっていた……?
……いや、違う。
レオンはかぶりを振った。
僕が戦争に参加したところで、無駄な血が余計に流れて戦場が泥沼化するだけだ。
どうして皆は、それに気付かない?
「……帰って下さい。アメルは貴方たちには会わせるわけにはいきません」
毅然とした態度で言うレオン。
「アメルには戦わせません……絶対に」
「……まあ、急な話だということは我々も理解はしているよ。すぐに返事を貰おうとは思っていない」
兵士長はレオンの手から書簡を受け取って、一歩後ろに下がった。
「また来させてもらう。アメル殿から良い返事を頂けるまで……何度でも」
「何度いらしても答えは同じです。アメルは戦争の道具などではないのですから」
レオンが睨みつける中、兵士長は部下を連れて冒険者ギルドから出ていった。
ふー、ふーと荒い息を吐くレオン。
胸元に手を当てて、それをくしゃりと握り込む動作をする。
彼らの遣り取りを横で見つめていたラガンが、言った。
「……大丈夫なのか? レオン。国軍相手にあんな啖呵を切ったりして……」
「……問題はありません」
すぅ、と深く息を吸って呼吸を整えて、レオンは前を見据えたまま答えた。
「アメルは、僕が守ります」
彼が言うその言葉には、アメルを育てる勇者としての責任感が滲んでいた。




